正直なところ黒尾くんのすることなすことに何の興味もないけれど、学校の外周を何周もランニングしている姿を見ると同情してしまう。水浴びをしたみたいに汗だくになって、ぜぇぜぇと息を切らせて、まるで何かの罰でも受けているみたいに苦しそうな顔して、運動部って本当に大変そうだ。

 図書室の窓を右から左へ横切っていく黒尾くんの姿を3度見送って、おおよそ7分ごとに窓の外に黒尾くんが姿を現すことを知る。机の上に置いた腕時計の針を眺めながら、私は黒尾くんのつんつん尖った黒髪を思った。本当は、過去問を解く時間を計るための腕時計なんだけれどね。

 時計の長針が6周したところで、足の速い部員が通り過ぎる。それを見送ってから窓の外に顔を出すと、ちょうど黒尾くんが黒髪を揺らしながら走ってくるところだった。黒尾くんは私の顔を見ると意外そうな顔をしてスピードを緩めた。

「お疲れ」
「そっちもな」

 黒尾くんはシャツの襟を引っ張って口元の汗を拭う。そんなことしたらTシャツの襟が伸びちゃうじゃない、と思ったけれど、よく見ればもうだいぶ着古してしまっているようで、はなっからよれよれだった。汗に濡れた肌の色が透けていて、なんとなくじっと見つめてしまう。

「はい、差し入れ」

 ペットボトルを差し出すと、黒尾くんは嬉しそうな顔をして受け取った。

「おー、サンキュ」
「ずっと置いておいたから、温くなってるかも」
「別にいいよ」

 カチッと音をさせて蓋をひねると、黒尾くんはぐいっと喉をそらせた。日の光を浴びる黒尾くんの喉は目を見張るほど白い。バレーボールは室内競技だということを思い出す。

 ぼこんと飛び出した喉仏が、ドリンクを飲み込むのに合わせて上下に動く。それはなぜか、太古の昔に生きた首長竜を彷彿とさせた。天にも届くほど背の高い木の葉を、長い首を伸ばしてむしゃむしゃと頬張るあの恐竜。名前はなんといっただろうか、受験に関係のない知識はからっきしだ。

 ぷはっと、息を吐いてペットボトルの半分を空にした黒尾くんは、すっきりと笑った。

「はー、生き返るわー」
「そう、よかった。あと何周するの?」
「2周」
「ここ置いておくから、全部飲んでいいよ」
「随分優しいのな。なんか企んでる?」

 その挑むようなもの言いに、私はにやりと笑い返した。黒尾くんにちょっかいを出したのは、あの有名な恐竜映画じゃないけれど、今時珍しい首長竜に餌付けしているような気分がして楽しかったからだ。勉強の合間の暇つぶしにはもってこいと言うものだろう。

「いらないんだったら、別にいいんだけど」
「いるって」

 プリン頭のバレー部員がのろのろと歩くようなスピードで走ってきた。

「あ、クロ、サボってる……」

 と、力なく非難しながら黒尾くんを追い抜いていく彼を、黒尾くんは「研磨」と呼んで、その後を追っていった。











20190720(拍手再録)