問題集をちょうど半分まで解き終わったので、15分間だけ昼寝をしてもいいことにする。
スマートフォンのアラームをセットして、机に突っ伏して目を閉じる。頬骨が腕に当たっても痛くないところを探すのに少し手こずったけれど、前髪が目元にかかるようにして目を閉じる。数字と記号の羅列を眺めていたからひときわ目が疲れてしまったようだ、おろした瞼の裏で眼球がしんしんと染みた。図書館は受験勉強に追われる生徒でいっぱいで、ノートにペンを走らせる音だけがしていた。そろそろ追い込みの時期が近づいてきているからみんな必死だ。寝る間も惜しんで勉強している人もいるんだろう。私はちゃんと眠らないと効率が悪くなるから、夜はちゃんと眠るし、眠気を感じればここが図書館だろうと昼寝する。そういう私を白い目で見る人もいるだろうけれど、名前も知らない他人にどう思われようと別に何とも思わない。
と、思っていたのに、唐突にスマートフォンが震えて眠りに落ちかけた意識が平手打ちを食らった。明らかに、アラームが鳴るはずの時間より早い。何事かと見てみれば、LINEの通知が届いている。相手は黒尾くんだった。
片腕に頭を乗せたまま見てみると、
【勉強、お疲れ】
というメッセージとともに、一枚の写真が添付されていた。知らない男の子の膝の上に三毛猫がちょこんと乗っている。男の子は金髪で、頭のてっぺんだけが黒いプリン頭だ。どこかで見たことがある気がするけれど、誰だろう。三毛猫はいかにも得意げな顔をして男の子に背を向けている。男の子は片手でスマートフォンを操りながら、もう片方の手で猫の背中を撫でている。写真に撮られていることには気づいていないらしい。
続けてメッセージが来る。
【猫は好き? それとも犬派?】
つい、口元が緩んでしまった。すぐに既読をつけてしまって、これじゃ黒尾くんのメッセージを待っていたみたいに思われそうだ。それはなんだかしゃくに思えて、このままスルーしてしまおうかとも思ったけれど、私はそんなに薄情な女じゃないし、と思って指を動かす。
【部活、お疲れさま。私は猫派です。かわいい猫だね。】
返事はすぐに来た。
【休憩中に遊びに来た。たぶん、近所の飼い猫。】
【癒されるね、羨ましい。】
【遊びに来れば? タイミングあえば見れるよ】
【気が向いたらね。部活、頑張って】
返事の代わりに、三毛猫の写真がぽんぽんと連続して送られてくる。カメラ目線が決まったものから、猫が動いたせいでブレブレのものまである。つい声を出して笑ってしまって、近くに座っていた生徒にじろりと睨まれてしまった。いけない、いけない。気を付けないと、ここは図書館なんだから。
それにしても、不思議だ。あんなに底意地が悪くて私を怒らせるようなことばかり言う黒尾くんのことを、どうして私は好きなんだろう。自分の気持ちのことなのにさっぱり分からない。こんなさやかなメッセージをもらっただけで、胸が躍るように嬉しい気持ちになって勉強の疲れも吹っ飛んでしまう。
さて、もう少し頑張ろうか。うんと腕を伸ばして背筋をまっすぐにする。休憩は終わりだ。
(黒尾くん、精一杯のごきげんうかがい。拍手御礼夢再録。)
20190218