十年後の私たちはもっといじわる





「黒尾くんはどうしてあんなにいじわるなの?」

唇を尖らせて不満を口にすると、夜久くんは困ったように笑った。

「一体どんな風にいじめられてるの?」

私は指折り数える。

「嘘をつかれるでしょ、悪口を言われるでしょ、蔑むような目で睨まれるでしょ、勝手に触ろうとするでしょ、私の失敗を笑うでしょ……」
「そんなにあるの?」
「全然言い足りないよ」
「そいつはひどいな!」

夜久くんはけらけら笑って机をばんばん叩いた。笑いごとじゃない。
となりの席の私は黒尾くんのいじわるのせいでこんなに辛い思いをしているというのに。

「何か対策ないかな? 夜久くん、黒尾くんと仲いいんでしょ? なんとか言ってみてくれない?」
「いやぁ、俺が何言っても聞かないと思うよ」
「それは分かんないじゃない」
「いやいや、俺にそんな力はないよ」

 夜久くんにそこまで言われたら、私はどうしたらいいんだろう。
 あんなにいじわるな黒尾くんにひとりで立ち向かえる気がしなかったし、ましてやいじわるをやめさせるなんてとんでもない無茶なことに思える。

「まぁ、悪気があるわけじゃないと思うんだよねぇ」
「どういうこと?」

 夜久くんはうーんと頭を悩ませる。

「あいつは元々あぁいう性格なんだよ」
「いじわるなところが? それでよく今まで友達に嫌われないでこれたよね」
「なんて言ったらいいんだろう。気になるやつほど構いたがるんだよね」
「ふぅん?」
「うまく言えないけどさ、仲良くしたくてやってるんだと思うけどな、俺は」
「うーん」

 夜久くんは奥歯にものの挟まったような言い方をして黒尾くんをなんとかフォローしようとしているようだったけれど、私にはそのひとつも理解できなかった。
仲良くしたいなら、もっとお互いに楽しくなれるようなことを話したりすればいいのに、黒尾くんは私を怒らせるようなことばかりするし言うんだもの。
とてもそんな風には思えない。

「うーっす。ふたりで何話してんの?」
「いや、別になんでも」

席に戻ってきた黒尾くんは、にたにた笑いながら両手をポケットに突っ込んでいる。
襟を開いてゆるく結んだネクタイ、相変わらず寝癖が付いたままの硬そうな髪、眠そうな目。
私は、その口から次はどんないじわるが飛び出してくるのだろうと身構える。

「なぁ、ちょっと手出して」
「なに?」

 私がびくりと肩をすくませると、黒尾くんは眉をハの字に曲げてちょっと首をかしげた。

「お詫びがしたいんだけど。ほら、この間悪いことしたじゃん」
「心当たりが多すぎてどのこと言ってるのか分かんない」
「じゃぁそれ全部。本当にごめんね。これで許して?」

 黒尾くんはポケットから手を出すと、グーの形に握ったそれを私の目の前に差し出した。
 いまいち信用がおけなくて、黒尾くんを睨み返す。
 黒尾くんは精一杯優しい表情を作ってじっと私を見ていた。黒尾くんがこれだけしおらしい態度を取るのは珍しい。

 こんな黒尾くんを前にしてお詫びの品を断ったら、私の方がへそ曲がりみたいに思われそうだ。
 私は黒尾くんのグーの下に両手を差し出して、それを受け取るなり悲鳴を上げてむちゃくちゃに両手を振り回した。黒尾くんの手の中から出てきたのは、真っ赤な色のカナヘビだった。

 私は涙目になって体の横で拳を握り締めた。ちょっとでも黒尾くんを信用しようと思った自分がばかみたい。私が何をしたっていうの、どうしてこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの。
 黒尾くんは腹を抱え私を指さしながらゲラゲラ笑っていて、夜久くんも両手で顔を押さえて肩を震わせて笑っている。


 もう、ふたりとも、だいっきらい。





20170605



拍手御礼夢、再録。 title by OTOGIUNION