身長差






図書室の本棚って本当、実用的じゃないと思う。どうしてこんな手の届かない場所にまで本を詰め込んでるのだろう。読んで欲しいならもっと手に取りやすい場所にあるといいのに。踏み台も近くにないし、これじゃ本は図書館の装飾品みたいだ。

つま先立ちになって、左手をできる限り上に伸ばす。目的の本の下にやっと指先がかかる。なんとか爪を引っ掛けて引っ張り出せないか試してみるけれど、ぎゅうぎゅうに詰まった本はぴくりともしない。これはもう、司書の先生に声をかけてなんとかしてもらうしかないかな、と思っていたら、突然背後からにゅっと人の腕が伸びてきた。

「これ?」

その腕は私のお目当ての本にすっと届いて、いとも簡単に棚から引っ張り出した。腕の先をたどるとそこには、目つきの悪い隣の席の住人がぼんやりと立っていた。新学期、隣の席になった背の高い男子だった。

席についているとよく分からないのだけれど、号令の時にクラスメートが一斉に立ち上がると、彼のところだけにゅっと頭ひとつ分飛び抜ける。その瞬間が妙に面白かったから、名前はすぐに覚えた。

「あ、黒尾くん。そうそう、これ。ありがとう」

本を受け取ると、黒尾くんは本の表紙を眺めながら言った。

「難しそうなの読んでんだな」

「そう? 面白いよ」

本の表紙には、「ジェーン・エア C・ブロンテ」とあって、装丁は古くくすんだ布張りだった。

黒尾くんはさして興味もなさそうに「ふぅん」と言って、首の後ろをかいた。

黒尾くんは背が高い。天井を見上げるみたいにしないと、目線が合わない。髪の毛が上に向かってつんつんと立っているから余計に大きく見える。運動部なのだろうか、肩幅が広くて、胸板が厚い。

「何がそんなに楽しいの?」

ふいに、黒尾くんは何か怪しいものを見るようにそう言った。気がつけば私は無意識の内に、にゅっと背の高い黒尾くんを見上げてにやにや笑っていたらしい。まぁ、黒尾くんがこんなに面白おかしい風貌をしているのだから、しょうがない。

「黒尾くんって、身長何センチ?」

「なにそれ急に」

「別に何でも。大きいなぁと思って」

「背ぇ高くて笑われたのはじめてだ」

「笑ってないよ」

「笑ってんだろ」

「で? 何センチ?」

「88くらいかな」

「私、60。すごいね、30センチ近く違うよ」

「はぁ」

黒尾くんはどうリアクションすればいいか迷ったようだったけれど、結局言葉は見つからなかったらしい。「じゃぁ」とそっけなく言うと、図書室の真ん中に並べられた机について、教科書とノートを広げた。受験勉強をしているのだろう。

大きな背中が椅子の背もたれから余ってはみ出している。長い足は机の中に収まらず、片方が通路に投げ出されていた。丸まった背中。ぼんやりとした目がノートに落ちて、無造作につんつんと立った髪の毛が頬杖をついた拍子にかすかに揺れた。





20150104



初出:「SSS」20141203に追記。