好きキライあいびき 跡部景吾
『次の金曜日、7時に待ち合わせだ。いいな?』
電話口から聞こえる跡部くんの声は、語尾にクエスチョンマークがついているものの、強い断定口調だった。私の都合なんかお構いなし。いっそ命令と言ってもいい。私がそれを素直に聞き入れると決め付けている態度。俺様の言うことを聞かないなんてありえないという傲慢さ。押し付けがましさ、王様気取り、言葉はなんでもいいけれど、世界は俺様を中心に回っているんだと言わんばかりの傍若無人な振る舞い。
私は時々、跡部くんのこういうところをどうしても許せなくなる。
「その日はどうしても無理。少しは私の都合も考えて」
『俺様がお前のためにこの時間を割いてやってるんだとしてもか?』
跡部くんが忙しいのなんて百も承知だ。だからと言って、私に事情も確認しないでスケジュールを抑えてしまうのは勝手が過ぎる。
「そうよ。私だっていつも暇だって訳じゃないんだから」
『調整しろよ。俺様のために』
「どうしていつもいつも跡部くんの都合に私が合わせなくちゃならないのよ」
『俺はお前のことを考えてこの時間を作ってる』
「それは分かってるけど、」
『分かってるならなんだ?』
「……」
そう、本当は分かってる。息つく暇もないくらい忙しい跡部くんが、私のために金曜日の夜7時からの時間をなんとか捻出してくれたことも、少し考えれば簡単に想像できる。跡部くんは努力家だ。抜かりなく、完璧。
だからこそ、こんな自分が嫌になる。跡部くんのために金曜日の7時からの時間を捻出できそうにない私はなんて不甲斐ないのだろう。完璧な彼に、不完全な私は不釣り合い。
『よし。じゃぁ、こうしよう』
「……なに?」
『金曜日、お前がくるまで待っている』
「何時に行けるか分からないわ」
『土曜日の朝まで時間はとってある』
「行けないかもしれないわ」
『それでも待っている。お前のための時間だ。たとえ、お前が来なくてもな』
最後の言葉だけ、跡部くんの口調が少し柔らかくなったような気がした。気のせいかもしれないし、電波障害かもしれない。それとも、私の頭が甘い言葉に酔って聴覚がおかしくなったのかもしれない。
「……行けないかもしれないけれど、頑張る。きっと行く」
これだから、跡部くんと付き合うのは嫌になる。跡部くんはちっとも楽をさせてくれない。逃げ道も作ってくれないし、簡単に甘えさせてもくれない。それはまるでビジネスのようでもあってときどき苦しくなるけれど、私はそれを甘んじて受け入れている。
跡部くんはいつだって何にだって、本気なのだ。こんなちっぽけでどうしようもなく弱い私にさえ。
『待っている。いつまでもずっと』
だから、その言葉を無条件に信じていられる。
20151109
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