3. 小首をかしげる





鳴海くんの女性のタイプは、自分より年上の女性なのだということは、早いうちから気づいていた。鳴海くんは他の誰よりそういうことについて開けっぴろげだったし、話を聞くまでもなく、彼の行動を見ていればそうなんだろうなということがすぐに想像できた。きっと誰に聞いても、このことについて異論はないと思う。

ただ、私にはひとつだけ疑問がある。そんな鳴海くんが、どうして同い年で大して仲良くもない私なんかとお茶してるのかっていうことだ。

「まぁ、俺も少しは大人になったってことだよ」

鳴海くんはいやにしみじみと言って、ブラックコーヒーを一口飲んで苦々しく顔をしかめ、ポーションミルクを手に取った。

「どういうこと?」

私はホットココアで両手を温めながら、鳴海くんの言葉をうながした。人見知りで口下手で根暗という三重苦に悩まされた子ども時代を超えて、コンプレックスを克服できないまま大人になった私は、相手の話を上手に聞くというコミニュケーション法を確立させて、どうしても話が弾まない相手には特にそのスキルを発揮することにしている。中学生の頃からの付き合いであるところの鳴海くんにそうしなければならないというのは、ちょっと情けないような気もしたけれど。

「お前って、なんかバリア厚いじゃん。中学の頃からさ」

「そう?」

「そうだよ。俺のことなんかガキがはしゃいでんなぁってくらいにしか思ってないみたいな顔で見てやがったしさ」

「そんなことはないと思うけど」

「無意識だってんなら余計たち悪いな」

「まぁ、あの頃はね。いろいろと余裕がない時期だったから。鳴海くんに対して無意識だったってことは、なくはないかも……」

「だろ?」

「それについてはごめん。でも、鳴海くんだって、私のことそんなに意識してなかったでしょ?」

そういうと鳴海くんは苦虫を噛み潰したような顔をした。まるで小学生の男の子が機嫌を損ねているようで、鳴海くんのいうこともあながち間違ってないなと思う。鳴海くんは私と同い年だけれど、年下だっておかしくないくらい、ときどきとても子どもっぽい。その証拠に、大人になった今でもブラックコーヒーは苦手らしい。

「……意識してなかったってことはねぇよ」

「そうなの?」

「言っておくけどな、俺だけじゃねぇからな!? 俺以外のメンバーも、多かれ少なかれお前のことは意識してたから! 中坊のメンバーに女1人混ざってたら、そりゃするなっていう方が無理だからな!?」

「そう。それで?」

「それでって?」

「どうして今日は私とお茶しようなんていう気になったの?」

私は小首を傾げて、鳴海くんに問いかける。鳴海くんは情けない男の子の顔をして、それを隠すように両手で覆った。そして、泣きそうな声で絞り出すように呟いた。

「……知佳さんが電話出てくれなくてさ」

「喧嘩?」

「そう」

鳴海くんは本当に子どもっぽい。鳴海くんのタイプが年上のお姉さんなんじゃなくて、相手のお姉さんのタイプが年下の男の子なんじゃないだろうか。その真偽については、今後の彼の行動を見守っていればきっと分かるだろう。

「まぁ話くらいは聞くよ。何があったの?」

だから私は、今日も少しだけ首をかしげて鳴海くんの話に耳を傾けた。