2. 足を組む





絵のモデルになってくれないかと跡部くんに頼んだら、それは嬉しそうに笑って、二つ返事で頷いてくれた。断られるとは思っていなかったけれど、大好きなお菓子を真夜中に食べてもいいよって言ってもらった子どもみたいな顔をされては少し気が引けて、学校祭で展示する作品に跡部くんの人物画でも飾ったら、美術部の展示の客寄せになるかなという下心があっての依頼だとは言い出せなくなってしまった。

部室の真ん中に置いた椅子に座った跡部くんは高く足を組み、肘掛に両腕をかけ、くつろいだ様子で背筋を伸ばしている。そのままじっとしていてと私が頼んだので、目線は窓の外の遠い所を眺めて動かない。

木炭を使って、キャンバスに跡部くんの姿を写し取る。

均整のとれた体、綺麗に通った鼻筋、さらりと額に落ちかかる前髪、光の強い瞳。絵のモデルとしては文句のつけようがない最高の素材だ。肩から白い布地でもかければ、まるでデッサン用の石膏像のように美しい。そう、跡部くんは美しい人だ。それはもう王侯貴族かと見間違うくらいに。

「何かしゃべれよ」

跡部くんが窓の外に向かって言った。

「しゃべると集中できない」

木炭を滑らせることに集中していたせいで、思いがけずぶっきらぼうな声が出た。跡部くんは喉をくっくと鳴らして笑った。

「その言い方」

「なに?」

「お前らしいな」

「私らしいって?」

私はキャンバスの中でだんだんとその姿を明確にしていく跡部くんに向かって言う。椅子に座って足を組む跡部くんと、真っ白なキャンバスの中、霧の中にいるようにまだ不明瞭な姿の跡部くんがいて、2人の跡部くんが私の目の前で交錯している。キャンバスに向かう時の独特な集中の中、狭くなる視野、鍵のかかった部屋の中にいるような感覚を覚えながら、私は跡部くんの声に耳を傾けた。

「お前は好きなことに向かうとき、誰かに邪魔されるのが嫌いだろう。お前は絵が描ければ他に何もいらないんだ」

「そうかもね」

「将来も、絵を描いて生きていければいいと本気で思ってるんだろう?」

「ご想像にお任せするわ」

「絵を描くために、俺はきっと邪魔なんだろうな」

「そう思うならもうちょっとお気遣い願いたいわね」

「俺はお前のそういうところが好きなんだ」

「それは、どうもありがとう」

「ありがとうなんて、思ってもないくせに」

からかうような跡部くんの言葉を無視して、私はキャンバスに集中する。こうやって何もかも見抜かれてしまうから、私は跡部くんが嫌いだ。隠し事一つできやしないし、自分でも気づかない深層心理を言い当てられて居心地悪いったらない。けれど、キャンバスの中に徐々に姿を現す跡部くんは本当に綺麗で、どうしてこんなに嫌いな人に見とれてしまうのかと、私は自嘲気味にため息をついた。