1.目を閉じる
遠慮がちに頬に触れる土方さんの手は大きくて、顎の先から耳の先まですっぽり覆ってしまう。無骨で硬い手が私の肌をなぞる。熱い手だ。その熱が心地よくて?をすり寄せるようにすると、土方さんの手はびくりと震えた。
「どうして逃げるんですか?」
笑い混じりにそう聞くと、戸惑ったような土方さんの声がした。
「逃げてねぇよ」
「嘘」
「嘘じゃねぇ」
すっと身を引こうとする手を、私は両手で捕まえてぴったり頬に押し当てた。右手で手首を掴んで、左手を土方さんのそれに添える。はじめ強ばっていたそれは、観念したように力を抜くと、指の腹で私の肌を撫でた。
「……傷つけそうな気ぃすんだよ」
「何を?」
「俺、手ぇ荒いだろ」
頬に触れる土方さんの手は、確かに硬い。私の肌とはまるで違う。例えば、土を練ってつくる焼き物の、土の感触がざらりと残った焼き物と、塗料で滑らかになった皿のように、同じものでできているはずなのに手触りはこんなにも違う。そんな風に、土方さんの手と私の肌は違う。
けれど、私は土方さんの手を捕まえて離さない。
土方さんは、硬い皮膚が私の柔肌を傷つけてしまうかもしれないと、そんなささいなことを恐れて、ただ頬に触れることさえ怖がる。初めは私みたいな非力な女に噛みつかれるとでも思っているのかと思ったけれど、どうやらそうではなく、土方さんの手が私の体を傷つけやしないかと心配しているというのだから困ったものだ。確かに、土方さんの手にかかれば私なんて一捻りだろう。それほどの力を土方さんは持っている。何人もの人を斬り、その命を頂戴してきたその腕。家事しかしない私の細腕なんか、きゅっと握っただけでぽきりと折れてしまうかもしれない。土方さんは私の前で、その力を持て余す。
これは銀時から又聞きした話だけれど、神楽は昔、力加減を間違えてペットの兎を絞め殺したことがあるらしい。だから今は、神楽の怪力などものともしない定春をペットにしているのだという。
土方さんにとって、私はその兎と一緒だ。力加減を間違えて殺してしまうんじゃないかって、びくびく怯えて、ただ頬に触れることさえ怖がる。
もしかしたら、土方さんが恐れている事態が現実になることもあるのかもしれない。これから先、何が起こるのかは分からない。それくらい未来は不確かだ。
それでも、今感じるこの手のひらの温かさを信じていたい。私に触れようと手を伸ばしてくれる土方さんの意思を受け止めたい。土方さんが怯えるなら、平気な顔で笑っていたい。
「この程度で傷つくほど、やわな肌じゃありませんよ」
土方さんは仕方がなさそうに笑って、私の手に指を絡めた。
「確かに、思ったより丈夫そうだ」
だから私は、微笑んで目を閉じる。不確かな未来には、ひとまず蓋をしておくために。