時雨





「せっかくのお休みなんだから、映画でも見に行く?」

と、玲に誘われたけれど、ソファから起き上がる気にならなくて生返事をした。

「雨降ってるじゃん」

「予報じゃ、これから晴れるらしいわよ」

「でも、雨の日って体がだるくなるんだよ」

「具合が悪いの?」

重りが詰まっているような鈍く痛む眉間を抑えていると、玲は心配そうに顔を覗き込んでくる。

「というより、低気圧のせいかな。頭が痛くて耳鳴りがするの」

「雨が降るといつもそうなの?」

「程度にもよるけど、大抵はね」

「そう。それじゃやっぱり今日は……」

玲の言葉を遮るように、電話が鳴った。玲の携帯電話だ。

「はい、もしもし。あぁ、翼? うん、えぇ。今代わるわね」

玲は寝転がったままの私の目の前に携帯電話を差し出して、いたずらっぽく笑った。

「翼から電話よ」

「私に?」

「そう。はい」

しぶしぶ携帯電話を受け取って、耳に押し当てる。

「もしもし?」

『おう。今日暇だろ? ちょっと出てこないか?』

「……暇って。決めつけないでよ」

『何だよ、用事でもあるのか?』

「頭が痛くて休んでるの」

『これから将達とフットサル行くんだけど、お前も来いよ』

「フットサル? この雨なのに?」

『屋内のフットサル場だよ。○○駅からすぐのところにあるんだけど、分かるか? なんなら、政輝に迎えに行かせるけど?』

「ちょっと待って。具合悪くて休んでるって言ってるじゃん。行けないよ」

『ちょっと頭痛がするくらいで何ヤワなこと言ってんだよ。そんなんだから体強くならないんじゃない? そもそもそういう体質だって自分で分かってるなら、治す努力をするとか、体鍛える努力をしたら? それに、別に一緒にプレーしろって言ってないだろ? 座って俺たちを見てろって言ってるの。分かる?』

「いや、だからさ……」

『じゃ、2時にな。来なかったらこっちから行くぞ』

「え、ちょっと待って……」

返事を待たずに、電話は切れてしまった。虚しい電子音を響かせる携帯電話を睨みつけていると、玲がぷっと吹き出すように笑い出した。

「何がおかしいの?」

「ううん。翼もあなたも相変わらずだなと思ってね」

「そう?」

「そうよ。あなた、翼には敵わなくていつも丸め込まれるんだけど、それが間違ってたことって一度もないのよね」

「えぇ? そんなことある?」

「そうよ」

玲はポーチから折りたたみのコームを取り出すと、寝転がっていた私を起こして髪を梳かしはじめた。

「送ってあげるから、行ってきなさい」

「でも、雨が降ってるのに……」

「大丈夫よ。見て」

窓の外を見ると。空に明るさが増して、天使の階段がまっすぐに伸びているのが見えた。よく見ると、虹の架け橋の一端も見える。

「もう雨は止んだわ。頭痛もそのうち良くなるでしょ」

「……そうだといいんだけどね」





20141117