夕立





真っ黒な雲が空を覆い尽くして、不穏な音がごろごろと響いている。

心臓がきゅっと縮こまって息苦しい。少し頭が痛いので痛み止め薬を飲んだけれど、全然効いている気がしない。テーブルに大好きなオレオクッキーとカフェオレを並べて、心を落ち着けようとするけれど、それも全然うまくいかなかった。力いっぱい抱きしめたクッションが変型しておかしな形になっていた。

「そんなんなるほどかよ?」

元希はベランダに続く窓の側に立って、呆れたように笑っていた。

「……だって気持ち悪くなるし、大きい音びっくりするんだもん」

「ガキじゃねぇんだから、慣れろよな」

「無理。雷だけは、絶対無理」

「お、光った」

と、元希が言った。

ぎゅっと耳を塞いで何秒か後、腹の底に響く重低音が空から降ってくる。体中に緊張が走って呼吸が止まってしまう。

「大丈夫か?」

隣に元希が座るどすん、という音がして、ソファが沈んだ。

「……大丈夫じゃない」

つい、上目遣いに元希を睨んでしまう。元希は困った顔でため息をついた。高校生にもなって雷が怖いなんて、元希には想像もできないのだろう。どう慰めればいいのか迷っているように見える。

「耳栓でもするか?」

「あれ全然聞こえなくなるわけでもないじゃん」

「じゃぁ、もういっそ寝ちまうとか」

「怖くてむしろ目が冴えてるもん。無理」

「じゃぁどうしたいわけよ?」

「今すぐ天気回復してほしい」

「それこそ無理な話だろ」

その時、元希の顔が影で見えなくなるくらい強い光が空から差して、ほとんど同時に崖が崩れるような大きな音が響く。その直後、バケツをひっくり返したような大雨が降りだした。ぷつん、という音がして、電気が消えた。

「停電か」

元希の声がした。夜、というほど暗いわけではないけれど、すぐに目が慣れなくて一瞬何も見えなくなった。その心もとなさにぞっとして、反射的に元希の腕を掴んでしまった。

「大丈夫か? 真っ青だぞ」

元希の声に、首を横に振ることしかできなかった。まるで世界の終わりみたいだ。大げさだと分かっているけれど、そうとしか考えられなかった。

「……むり。怖い」

「しょうがねぇな」

元希が大きな手で頭を抱え込んで抱きしめてくれた。

子どもの頃、こんな夜に大人から、「カミナリ様におへそ取られちゃうよ」と脅されて、眠れなくなったことがある。体が震えるくらい怖くて仕方がなかったのに、お母さんもお父さんもへらへら笑っていて、信じられない気持ちでその顔を見ていたのを覚えている。もし私がおへそを取られても、きっと誰も悲しくないんだと思って絶望的な気持ちになった。どこにも掴まる場所のないぽっかりとした空間をすとんと落ちていくような感覚だった。雷の音を聞くと、その時と同じような気持ちになる。

クッションごと私を抱きしめてくれる元希の体は、大人のように大きくて頼もしい。知らないうちに体が冷えていたようで、私の手は白く色を失っていた。元希の体に触れているとそこからじんわりと体が温まるような気がして気持ちが良くて、涙が出た。

「泣くなよ。大丈夫だからさ」

「……うん」

「俺もいるし、な?」

「……うん」

また、雷が鳴った。元希にしがみついて耳を塞いで、涙が流れるに任せて泣いた。





20141117