篠突く雨





天気予報が外れて、激しい雨が降っている。置き傘にしている折りたたみ傘は、この雨の前ではとても弱々しく思えて、校門を一歩出るのがとても億劫だった。かといって、待っていれば雨が弱まるという保証もない。多少濡れるのは覚悟して、家路に尽くしか選択肢はない。

小さな傘をぽんと開いて足を踏み出した瞬間、目の前に胴長の白い車が停まった。ゆっくりと開いた窓の向こうに意地悪な笑い顔が見えて、心の中まで雨模様になった気がした。

「よぉ」

「跡部くん」

「乗っていけよ。家まで送ってやる」

跡部の言葉に合わせて、運転席から黒いスーツを着た初老の男性が、大きな傘を携えて車を回り込んできた。優雅な仕草でドアを開けると、広い後部座席で足を組んで座っている跡部が見えた。

「結構です。歩いて帰れます」

扉を開けたまま、大きな傘を差し掛けてくる男性に向かって言った。跡部に向かって答えるのは身分違いのような気がして気が引けた。そして、同時に癪だった。跡部くんの思いどおりになってやるものか、という気持ちがむくむくと湧き上がってきて、好戦的な気分になる。

「そう言わずにさっさと乗れよ」

「そんなことをしてもらう理由がないもの」

「人の好意は素直に受け取ればいいんだ」

「小さな親切大なお世話って言葉知ってる?」

「減らず口叩いてないで、さっさと乗れ」

有無を言わさない迫力でそう言われて、二の句を告げなくなってしまう。それを察したのか、傘を持った男性が微笑んで「さぁ、どうぞ」と囁いてきた。その表情はよく見えないけれど、傘を持ち上げた手が少し震えているように見えて、ため息が出た。こんなことでこの人を疲れさせてしまっては申し訳ない。仕方なく、折りたたみ傘を閉じて車に乗り込んだ。

「家は、確か香澄町だったか?」

跡部が言った。さすが氷帝学園の生徒会長だ。学生名簿でも見て、住所は確認済みなのだろう。

「4丁目です。跡部くんの家とは逆方向で申し訳ないわね」

「構わないさ」

広い車内はまっすぐ足を伸ばしても向かいに届かず、座席もソファのようにふかふかだった。甘い香水のようないい匂いがすると思ったら、美しく束ねられたレースのカーテンにさりげなく白い花が挿してあった。たった今まで学校の校門前にいたのに、まるで別世界だ。

「綺麗なお花。これはバラ?」

「あぁ。シルエットだな」

傘の男性が運転席に戻ると、車は静かに動き出した。運転席と後部座席は人ひとり分ほどの距離がある。きっと話しかけない限り、こちらの声は聞こえないことになっているのだろう。

2人きりになってしまったことを後悔して、跡部を見ないように雨に濡れる灰色の窓を見る。カーテンに挿してある白バラが雨によく映えて美しかった。じっとそれに見とれていると、不意に跡部が言った。

「花言葉を知っているか?」

「いいえ」

跡部はカーテンからバラを抜き取ると、王侯貴族のような仕草でそれを差し出した。

「純粋、というんだ」





20141117