にわか雨





窓ガラスを雨粒がぱたぱたと叩く音がした。それは徐々に激しさを増して、あっという間に大降りの雨になった。

「あら、降ってきちゃったわね」

「通り雨だろ」

銀時があくび混じりにそう言った。

耳かき棒を片手に、膝の上に乗せた銀髪を撫でながら、窓の外を眺める。まだ昼過ぎだというのに、夕方のように空が暗い。雨粒がガラスを流れてまるで蛇がうねっているようだ。

「洗濯物、誰か取り込んでくれたかしら」

「そんな気の利く野郎が真選組にいるかよ」

「そんなことないわよ。鉄ちゃんなんか、よくお手伝いしてくれるもの」

「誰? 鉄ちゃんって」

「銀さんも会ったことあるわよ。つぶらな瞳のかわいい子」

「あぁ、あのチェリーボーイ?」

「え、そうなの?」

銀時の耳の上をつまんで軽く引っ張りながら、耳掃除の続きをする。銀時が気持ちよさそうに喉の奥から声を漏らす。銀色の髪は天然パーマの上猫っ毛で、指に当たるとくすぐったい。

「あー、もうちょっと奥までほじってー」

「待って。大きいの取れそう……、あ、取れた」

「まじ?」

「見る? ほら」

「おー。こんなの俺の耳に入ってんのかよ。そのうち耳ふさがんじゃねぇ?」

「自分でちゃんと掃除しないからでしょう? はい、反対向いて」

銀時が寝返りを打って、その顔が自分の腹の方を向く。銀時は軽く目を閉じていて、その横顔は眠っているようにも見えた。銀色の猫っ毛がふわふわして、淡い雲か、綿飴のようで美味しそうだ。知らず知らずのうちに、子供にするように優しい手つきでその頭を撫でてしまう。

「なに」

「なんでもないわよ」

「じゃぁ何にやにや笑ってんの?」

銀時は、死んだ魚のような目をしてじっと見上げてくる。その瞼を指先で優しく閉じてやって、微笑みに乗せて答えた。

「雨、止まないね」

「通り雨なんだからすぐ止むだろ」

「止むまで、ここでのんびりしていっていい?」

「そんじゃ、夕飯作ってってくんない? 久しぶりに味噌汁飲みたいわ」

「いいわよ。確かお豆腐買ってあったわよね」

「油揚げもあった気ぃすんな。賞味期限怪しいけど」

銀時はぶっきらぼうに言った。雨の日のしっとりと湿った空気の中、その声、喉の震えが、太ももを伝って体の芯に伝わってきた。雨の音と銀時の声が混ざり合って、不思議な音楽のようになる。

まるで、うす暗い羊水の中、何にも心配のいらない、ただ守られているというその振動を感じながら、雨の音に耳を澄ませてこの世に生まれる時を待っているような気分だ。もしかしたら、母親の胎内にいる赤ん坊はこんな気分なのかもしれない。

そんなことを、雨に濡れる窓を眺めながら思った。





20141117