街角マルガリータ
安室さんとカーセックスする話です。18歳未満の方はご遠慮下さい。
夜景はこの上なく美しく、透とふたりでいつまでも眺めていたかったけれど、さすがに冷たい海風が体にこたえた。我慢の限界がきて、
の方から車に戻ろうと言うと、安室は名残惜しそうな顔をしてそれでも分かったと言ってくれた。
多少見劣りはするけれど車内からでも景色は十分に楽しめるので、エンジンをかけず、もう少しだけふたりの夜を堪能することにする。
星のように夜に滲む光に魅入っていると、ふいに、肩の上を何かが滑ったような気配を感じた。見ると、安室の指が、
の肌に触れるか触れないかのところで、そっと肩の輪郭をなぞっていた。くすぐったくて思わず肩が跳ねる。
「何?」
は笑い混じりに言うと、安室はわずかに口端を持ち上げて微笑んだ。遠い夜景に安室の浅黒い肌が照らされて、もともと日本人離れした顔立ちがまるで異国の人のようにエキゾチックな空気をまとう。
「綺麗だなと思って」
なんのてらいもなくそう言われて、
は照れくささのあまり目をそらして吹き出してしまった。
「笑わないでくれよ」
「だって、そんなはっきり言われると恥ずかしい」
「こっち向いて、顔見せてよ」
「やだ」
安室は、
の首の後ろの後れ毛を指に引っ掛けて遊んでいる。毛先が肌を撫でる感触に体が震えそうになるのをなんとか堪える。肌に触れるか触れないかのところにある安室の手の気配だけで、それが自分にはない熱を持っていることが分かってどきどきする。
「
」
と、安室は
の髪をほんの少し強く引っ張った。仕方なく振り返った
は、導かれるまま体を乗り出して安室の唇に自分のそれを重ねた。
安室の体からは、さわやかな香水と乾いた汗の匂いが混ざった独特の匂いがして、安室の愛車である車内にいるとその匂いに全身を包まれているような気分になる。呼吸をするたびに脳天をつく安室の匂いに、
はあっという間に意識を奪われてしまう。
キスを繰り返しながら、安室は指先を使ってくすぐるように
の肩を撫でた。肌に触れるか触れないかの玄妙な手つきに、
は産毛が逆立つような快感を覚えて苦しくなる。安室の指は熱く乾いている。まるで煙草の火を腕に押し付けられているようだ。一生消えない痕を肌の上に残すような、強烈な快感から逃げ出せない。
安室の指は時間をかけて静かに下へ降りていき、やがて
の膝頭にたどり着いた頃には、
の頭はすっかり麻痺していた。
安室の唇と舌の愛撫でどろどろに溶けた口元は、ふたり分の唾液で濡れそぼっている。
「いい?」
そうささやきながら、安室はドレスの裾をそっと摘まみ上げる。膝の上をドレスの生地が滑った瞬間、電気が走るような快感に襲われて
は思わず上ずった声を出してしまった。
「気持ちいいの?」
と、安室は悦に入って笑った。
はドレスの裾を抑えて首を振った。
「違う。くすぐったかっただけ」
「嘘ついても分かるよ」
「触り方がやらしいんだよ」
「嫌?」
安室は遠慮なくドレスをめくり上げて、
の足の付け根まであらわにする。ガーターストッキングの繊細なレースが目の前に現れて、安室は爪を引っ掛けないように慎重にそれを撫でた。
「こういうのいいね、
にすごく似合う」
そう言う安室の声は、欲情した男独特の切羽詰まった調子が感じられて、
は唐突に不安になった。
「ねぇ、ここでするの?」
不安は的中した。安室はそれが当然言わんばかりに満面の笑みを見せたのだ。
「だめ?」
「こんなところじゃやだ」
「こんなの見せられたら我慢できないよ」
「私が見せたんじゃないし。家まで我慢してよ」
「でももうこんなんだし」
安室は
の手を取ると、自分の股間に導いた。その熱さと硬さに、
は思わずぎょっとする。一体いつからこんな風になっていたんだと思う。スーツの上からそっと擦り上げてやると、安室は甘く息を詰めた。
「誰かに見られたらどうするの?」
「そう考えると余計に興奮しない?」
「ばか」
呆れて苦笑いをした
の唇を、安室は子どものような笑顔で再びふさいだ。
互いの唇を貪りながら、
は手探りで安室のベルトのバックルを外し、安室は
の足の付け根に手を入れて、すでに濡れている下着を擦り上げる。安室のものを取り出した
は、ズボンの中から勢いよく飛び出してきたそれを丁寧に擦り上げた。安室のものは人の体の一部とは思えないほど熱くて手が離せなくなる。擦り上げるたびに安室は苦しそうに眉間にしわを刻み、
も、安室の手が濡れた下着越しに突起を探り当てたときには安室の口の中に喘ぎ声を注ぎ込んだ。
と、突然リクライニングシートが倒れた。
の目を盗んで、安室がサイドレバーを押し下げたのだ。悲鳴を上げて後ろに倒れた
に、安室は嬉々としてのしかかってくる。
「ちょっと、ひどい」
と、
は思わず笑ってしまいながら不平を言う。
安室は笑いながら、
の髪を撫でてくれた。
「大丈夫? どこかぶつけた?」
「ぶつけてはないけどびっくりした」
「ごめん」
安室は
にまたがったまま、待ちきれないようにネクタイと襟元を緩める。
はネクタイの端を引っ張ってそれを助けてやった。
車内は狭い。安室が抱え上げた
の足が窓ガラスに押し付けられるし、安室も背中を真っ直ぐに伸ばせない。けれどそのいかにも不自由な雰囲気が余計にふたりを熱くする。
安室がコンドームの袋を破っている間に、
はショーツからルブタンのハイヒールを履いたままの足を片方だけ抜いた。
「挿れるよ」
と、わざわざ口に出して言う安室を、
は両手を伸ばして受け入れた。一気に奥まで突き上げてきたそれに、
は声を上げて体をよじった。カーセックスなんて、あまり長い時間をかけて楽しむものではないが、分かっていても体がついてこない。
「大丈夫?」
安室は
の顔を覗き込みながら、
の目元に落ちた髪を邪魔にならないように払ってくれた。自分だって余裕のない顔をしているのに、優しい気遣いが嬉しい。
「うん、平気」
「すごく締まってるよ。苦しくない?」
「そんなことないよ、まだびっくりしてるだけ。気持ちいいよ」
「痛かったらちゃんと言って」
「うん」
一番奥まで入った安室のものが、ゆっくりと後退して再び押し入ってくる。その見た目に反して驚くほど優しいやり方に、
は信じられない安心感を覚えた。激しくはない。指先で肌を撫でてくれたあの甘い愛撫を、体の内側から受けているようだ。安室が腰を突き上げるたびにびりびりと電気が走る。安室はそんな
の手に指を絡め、座面に押し付けて
を落ち着かせてくれた。
「
」
と、意味もなく名前を呼ぶ安室を、
は自分から腰を浮かせて受け入れる。マラソンをしているような安室の息遣いに、
の呼吸も合っていく。
ドレスを脱げないのがもどかしかった。安室のスーツを脱がせてやれないのがもどかしかった。お互いに丸裸になって、安室の鍛え上げられたたくましい体の下敷きになるのが
は好きだ。獰猛な獣を飼い慣らしているような気分が味わえて心底楽しい。子どもの頃好きだった映画に、ベンガルトラを飼い慣らすお姫様が主役のアニメーション映画があった。王子様とのあれこれや冒険の物語より、お姫様とベンガルトラの言葉のないやりとりが
は好きだった。安室とのセックスは、そんな楽しさによく似ている気がした。
の頬に安室の汗の粒が落ちてくる。熱気が車内に満ちて暑い。よく見ると、冬でもないのに窓ガラスが曇っている。それほど夢中になって互いの体を求め合っていたとは、我ながらなんて滑稽なんだろう。そう思うとなぜか笑えてきた。
「え、どうしたの?」
なんの前触れもなく笑い出した
を見て、安室はぽかんと目を丸くする。
「なんでもないよ」
と
は首を振ってとぼけたけれど、安室は食い下がった。
「何かあるなら言って」
「何もないってば」
「気持ちよくなかった?」
「気持ちいいよ」
「じゃぁ何?」
「だから、何でも……!」
が言い終わる前に、安室は
の唇をふさいだ。その頬と、耳元と、鎖骨の高いところと、
が感じるところ全てにキスをして、しまいにはドレスを力任せにずり下げて胸をあらわにする。そこに強く吸い付かれて、
は背中をのけぞらせた。あんまり激しく動いたものだから、車体ががくんと大きく揺れた。
「透、ちょっと、それいや……!」
「俺は好きだよ」
の柔肌に、安室は歯を立てて責める。
はその痛みと快感が混じって声も出ない。器用に舌を使いながら激しく腰を使う安室は、我を忘れたように血走った目で
を見下ろした。
「
、笑ってるひまがあるならもっと俺のこと感じてよ」
「感じてるよ、十分」
「それじゃだめ。もっと俺に夢中になって」
は少し考えてから、両腕と両足を安室の体に回してがっしりと抱きついた。足元のヒールの金具が安室の腰に食い込んでいるような感触がしたが、
はそこにわざと力を込める。
「これでいい?」
と、挑発すると、安室は目の奥をぎらりと光らせてそれに乗った。
舌を絡め合い、唾液を交換し合い、互いの名前を呼び合いながら、やがてふたりは同時に達した。
熱気がこもり、窓ガラスは真っ白に曇っている。力尽きて胸の上に倒れている安室を抱きしめながら、
は昔観た映画の一場面を思い浮かべて呟いた。
「タイタニックみたい」
の柔らかい胸の感触を楽しみながら余韻に浸っていた安室は、ぼんやりと聞き返してきた。
「なにが?」
「ジャックとローズが船の貨物室でデートするの。車の窓が曇って、そこに手形が残ってるのを見つけた警備員が、ふたりがデートした車を見つけるシーンがあるんだよ」
「窓の結露のこと?」
「そう。結構曇ってるよ」
「本当に?」
「見ればわかるでしょ」
「
のおっぱいしか見えない」
「あっそう」
「でも、そろそろ行こうか。人に見られるとまずいしね」
「さっきは興奮するって言ってたじゃない」
「刑法第174条、公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
「……公然わいせつ」
「見つかればね」
安室はそれでも名残惜しそうな顔で起き上がると、
に上着をかぶせて運転席に戻る。くつろげていたズボンの前を元どおりに直すと、鍵を回してエンジンをかけた。
は安室の上着で胸元を隠しながら起き上がり、シートを元の位置に戻す。お尻を前の方にずらして座り、窓の外から顔が見えないようにする。髪も化粧もこれでもかと乱れているはずだ。夜道では目立たないかもしれないが、なんとなく恥ずかしい。
「透って、法律とかすごく詳しいよね。探偵なら頭に入れておかなきゃならないものなの?」
車のヘッドライトがふたりの行き先を照らす。幸い人影はなく、安室の心配は杞憂に終わった。
「まぁ、そんなところかな」
安室はそう呟いて、静かにアクセルを踏み込んだ。
20190603