夢本【ストライプ】のあなうめです。本を読んでいないと何のことだか分からないところもあると思いますのでご了承ください。











 キスひとつでほだされてあっさり車に乗ってしまった自分を、は信じられない気持ちで見ていた。

 ついさっきまで勢いよく燃え上がっていた怒りは、気がつけば影も形も見当たらない。どうやら、車に乗り込む直前に道に落としてきてしまったらしい。きっとそのまま、風にさらわれて消えてしまったんだろう。

 に残っていたのはただひとつ、驚きだった。自分の変わり身の速さ、単純さ、そして降谷の言葉。

 助手席からちらりと運転席を見やる。ハンドルを握っている降谷は、ヘッドライトが照らす先を無表情に睨んでいた。目が合うのが怖くて窓の外に視線を移す。

 暗い鏡のようになった夜の窓に自分の顔が映る。顔色までは分からないが、ぐったりと疲れた生気のない表情をしていた。あんなことがあったのだから当然だが、一気に老け込んでしまったように見えて気分が重くなる。気を紛らわしたくて、目の焦点をずらして街の夜景に目をやった。目を細めると光が滲むようにきらきらして綺麗だ。それで少しでも自分の心を慰める。

「好きなんだから」

 と、降谷の言葉がフラッシュバックして、は眉をしかめた。

 あれは、本気の言葉だったのだろうか。車に乗せるために口走っただけかもしれない、けれど、その後にキスが付いてきていた。乱暴で必死なキスだった。まだその感触が唇に残っているような気がして思い出すと口元がむずむずする。それを降谷に気取られたら意識していると思われそうでうかつに手も動かせなくて、はこっそり唇を噛み締める。

 降谷がに近づいたのは、事件解決の手がかりを探すためだ。都合よく使われていると分かっている相手に本気で惚れる人間がどこにいるだろう。

 分かっている。
 分かっているのに、はそれを受け止められない。

 降谷は景光のために泣いてくれた。景光の死を悼んで、一緒に泣いてくれたのだ。その涙だけは本物だったとは心から信じている。そのたったひとつの信頼が、正常な判断を鈍らせる。

 少し寒くて上着の襟を掴んで引き上げたとき、はふと気がついた。この上着は、服が裂けてしまったのために降谷が着せ掛けてくれたものだ。

 暗い窓越しに運転席を見ると、降谷は半袖のTシャツ姿だった。寒くないのだろうか。

 降谷の二の腕はよく鍛え上げられていて太く、の腕の2倍くらいはありそうだ。浮き出た筋肉のふくらみに影が落ちるほどで、Tシャツの袖口は腕の外周にぴったりと沿い窮屈そうに見える。あれだけ鍛えているなら、多少の寒さで根をあげたりはしないだろう。

 対しては、降谷の上着のおかげで体が温まってきた。体の血の巡りがよくなったせいで、ナイフで裂かれたズボンのポケットあたりがひりひりと痛み出した。見ると、裂けたズボンのところどころに赤いものが滲んでいた。

「どうかした? 大丈夫?」

 と、車に乗り込んでからはじめて、降谷が口を開いた。
 は気まずい気持ちを残しながらも、平気なふりをして答えた。

「さっき切られたところ、血が出ちゃったみたい」

 降谷の目付きが険しくなる。

「傷は深いの?」
「ううん。ナイフが少し肌の上を滑っただけ。平気だよ」
「家に着いたらゆっくり診せて」
「い、いいよ! そこまでしなくても!」

 思わず大声を出してしまったを、降谷は横目でちろりと睨んだ。こんなことで動揺した自分が情けなくて、は深く椅子の背にもたれる。こんな時だというのに、なんだか浮かれていた。心臓の鼓動が早く、視野が狭くなる。怒りが戻ってきたのかもしれないとも思うけれど、どうやらそうではないらしい。

 ギアを変える降谷の手をやけに近く感じて、血管が浮き出た降谷の手の甲を見るだけでどきどきしてしまう。自分の呼吸の音がやけに大きく響いているような気がして恥ずかしい。まともに降谷の顔が見れない。

 どうして言われるまま車に乗ってしまったんだろう。降谷の手を振りきって逃げようと思えばそうできたはずだ。けれど、できなかった。どうして?

 自分の立場は分かっている。
 ここに落ちてしまったら取り返しのつかないことになる。
 そんなことをしたら、明日にもこの身が危険にさらされるかもしれない。
 こんなことのためにこの仕事に命をかけてきたのではない。
 分かっていた。
 何もかも、分かっていた。
 でも



 と、降谷がこぼすように言った。

「さっきは、怒鳴ったりしてごめん」

 はわずかに顔を上げて、フロントガラスを睨んだ。降谷はじっと前だけを見つめている。

「何も心配いらないって言っておきながら、あんな目に合わせてごめん。ちゃんと守ってやれなくてごめん」
「そのことはもういいよ」
「傷つけてごめん。怒らせて、ごめん」
「いいってば。私こそ、怒鳴ってごめん。助けてくれてありがとう」

 信号に引っかかって、降谷は静かにブレーキを踏む。車が緩やかに停車してからサイドブレーキを引くと、やっとを振り向いた。思いつめたような表情でじっと見つめられると、ますますどうしたらいいか分からなくなる。降谷の青い瞳は胸の奥まで見透かすように深く澄んでいて怖いほどだった。

「さっき言ったことは嘘じゃないよ」
「……どうだか」

 強がる声が震えた。

「信じて欲しいなんて言うのはもう、本当におこがましいけれど、俺の中に唯一嘘でないものがあるとするならこの気持ちひとつだよ」
「……」
「ごめん、こんな風に勢いじゃなくて、本当はもっとちゃんと言いたかったんだけど」

 は降谷を睨み返す自分の瞳がみるみる迫力を無くしていくことをひしひしと感じていた。口先だけならどうとでも言える。また騙されて裏切られて酷い目に合うのかもしれない。あらゆる最悪の可能性が頭をよぎった。

 けれどその全てが、降谷を失うことに比べたらちっとも怖くはなかった。

「……今度こそ、信じていいの?」
「あぁ」
「絶対に裏切らない?」
「誓うよ」

 その瞬間、の目から涙がこぼれ、それを合図に降谷は二度目のキスをした。まるで初めてのように、互いを確かめるように静かに。歯止めがきかなくなるまで時間はかからなかった。貪るように互いの唇を求め合った。あんまり夢中になっていたら信号が青に変わったことにも気付かず、後続車からクラクションを鳴らされてやっと体を引き剥がす。

 降谷は険しい顔をしたままサイドブレーキを外してアクセル踏み込んだ。

 は胸を上下させながら、指で涙を払った。
 体が熱くて、仕方がなかった。



 部屋に招き入れるなり、降谷は靴を脱ぐ間も惜しんでにキスをした。ドアと体でを挟んで押しつぶすようなキスだった。とっさのことに鞄を取り落してしまったの手は、降谷の力強い手に捕らわれて頭の上に縫い留められてしまう。腰で急所を押さえ込まれて身動きも取れない。

 降谷のキスは、からからに喉が渇いた人がやっと手に入れた水をごくごくと飲み干すのに似ていた。の唇や舌を遠慮なく嬲り、が息継ぎをする間も与えない。息もできず、意識が朦朧としてくる。降谷の膝が足の付け根に押し付けられて、体の奥がじんじんする。熱が波のように湧き上がりつま先から震えが上がってきて、はついに膝をかくんと折ってしまった。

「ちょっと、いきなり激しすぎるよ……」

 ぺたんとその場に座り込んでしまったを、降谷は切羽詰まった目で見下ろした。

「ごめん、つい。大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ、もう」

 急に呼吸が自由になって、けほっと咳き込んでしまう。降谷が労わるように手を差し出してくれるけれど、を見つめるその表情にはまるで余裕がなく、優しいふりをして獲物を誘い出す悪魔のようだった。降谷は自分がどんな顔をしているか気づいているんだろうか。この手を取ったら間違いなくひどい目に合うのに違いない。それを分かっていながら、は操られたように降谷の手を取ってしまう。

 降谷はの腕を引いて立ち上がるのに手を貸し、そのまま膝の裏に手を入れて横抱きにした。

「わっ、ちょっと!」
「じっとして」
「自分で歩くから」
「いいから」

 降谷は勝手知ったる足取りで主寝室の扉を開け、ベッドにを寝かせて馬乗りになる。降谷が両手をついて体重をかけると、ベッドのスプリングが音を立てて軋んだ。

「ごめん、全然余裕なくて」

 降谷は険しい顔をしたまま、の頬を撫でる。
 は降谷の手に頬を擦り付けるように首を横に振った。

「いいよ。そんなの私もないよ」
「やっととこうなれて嬉しくて、頭がどうにかなりそうだ」

 は降谷の頬を両手で挟むと、うんと首を伸ばしてキスをする。唇を重ねたまま互いの服をむしり取るように脱がせる。は降谷のTシャツの裾をめくり上げ、降谷はの裂けた上着を文字通り引きちぎった。ふたりの体を隔てるあらゆるものが邪魔でしょうがなかった。降谷は首の後ろをつかんでいきおいよくTシャツを脱ぎ捨てると、それをベッドの下に放り投げた。

「痣がある」

 下着だけになったの体を見下ろして、降谷は低い声で言う。
 は降谷のベルトのバックルを外すのに悪戦苦闘しながら上の空で答えた。

「これ? この間、拉致られそうになったときのだよ」
「怪我はないって言ってたじゃないか。嘘だったんだな」
「言えなかったの。心配かけたくなくて」
「無理するなよ」
「大丈夫だよ、だんだん薄くなってきたし、痕もきっと残らないよ」
「そういう問題じゃない」

 降谷はバックルにかかったの手を掴んで、シーツの上に縫い止めると、の肩に残った痣に唇を押し当てた。

「俺の前で強がらないで。本当の気持ちだけ話してよ」

 肌の上を降谷の唇と舌が這う。痣から痣へ、星と星をつないで星座を描くようだ。降谷が触れたところから体が疼いて、波紋を広げるように指先まで震えてくる。その快感に身を委ねながら、は喘ぎ声混じりに必死に言葉を紡いだ。

「これじゃ、水着も着れないなって、思ったよ。お気に入りのがあるの。夏はそれを着て海に行きたかったけど、それまでに消えるかな」
「間に合わないんじゃないか」
「そんなこと言わないで、元気づけてよ」
の水着姿なんて、誰にも見せたくない」
「なによそれ」

 降谷は痣の上に強く吸い付いて、そこにキスマークを残す。あの恐ろしく不快な記憶を上塗りしようという強い意志を感じて、それだけでは泣きそうになった。泣き顔を見られたくなくて、降谷の頭を胸に抱く。きっとその涙の気配を降谷も感じただろうけれど、気づかないふりをしてくれた。

 降谷はの体を丹念に味わいながらたっぷり濡らし、指を使って十分に柔らかくほぐしながら、蹴っ飛ばすようにズボンを脱ぐ。下着の中から弾むように飛び出したそれは、ぐんと後ろに反り返るように硬くなっていて、そのあまりのたくましさに、は少し怯んだ。

「もういい?」

 と、降谷は一応確かめはしたものの、だめとは言わせない気迫がある。は、本当のことだけ言えといった降谷の言葉に従って素直に答えた。

「ちょっと、待って、私、久しぶりで、ちゃんとできるかどうか……」
「指、3本も入ってるよ?」

 降谷はわざと音を立てるように指を上下して、に嬌声をあげさせる。

「もう!」
「ごめん、俺もう無理だ、我慢できない」
「まって、まって」

 降谷の手にがっちりと骨盤を押さえ込まれ、は歯をくいしばってその圧迫感に耐えた。そこを直視する勇気が出ない。繋がったまま覆いかぶさってくる降谷の表情は切なく苦しそうだった。額に汗の粒が光っている。獣がうめくような声をあげて、降谷は言う。

、大丈夫?」
「ちょっと、苦しい。ねぇ、キスしながらして」

 鍛え上げて筋肉質な降谷の体は重い。のしかかられるたびに、とベッドが一緒に悲鳴を上げる。痛いのと気持ちいいのとが一度に押し寄せてきて何が何だか分からない。キスで頭がとろけて何も考えられず、自分がどんどんばかになっていくような気がする。その全ては、喉から手が出るほど強く欲していたものだった。

「ねぇ、の気持ちいいところ教えて」

 と言って、降谷は体が繋がったまま上下の体制を入れ替えた。瞬きの間に天地が変わるような素早さと力強さと身のこなしに、は驚きを覚えるよりもむしろ感心してしまう。

 微笑みでうながされて仕方なく、はそっと腰を浮かせた。降谷が動くのと比べればまるでうさぎとかめほどゆっくりした速度だ。気持ちのいいところにあたると中がきゅっとしまって、そのたびに降谷の表情が険しくなった。反り返ったそれが体の奥をがりりと引っ掻いて、は思わず顎を反らせて快感に震える。

 そんなをくまなく観察する降谷の視線にぞくぞくした。欲情し切った降谷のまなざし、心の中を全て見すかす蒼い瞳に、身も心も裸になった自分の全てを見ていて欲しいとすがるような気持ちで思う。まるで、事件現場の残された手がかりを決して見逃さないホームズみたいに、余すところなく全てを。

「かわいい」

 降谷はどこか恍惚とした表情で呟く。いかにも思わず口からこぼれてしまったような言い方だった。

「しゃべらないで」
「なんで?」
「いいから」
「本当のことなのに」

 降谷の手がマッサージをするようにの臀部をつかむ。熱く乾いた手のひらの感触に、はあられもない声をあげてしまって耳まで真っ赤になった。手のひらを顔の前にかざしてそれを隠す。

 降谷は腹筋の力だけで上体を起こすと、の手を掴んで顔をのぞき込む。

「照れないで。可愛い顔、ちゃんと見せて」
「いちいちそういうこと言わないで」
「恥ずかしがることないのに」
「もう、ばか」

 の体は降谷の腕の中にすっぽりと納まる。抱きしめられるとつま先から頭のてっぺんまで温かいものに包まれたような安心感を覚えて、は我知らずの内に主導権を手放した。降谷はあっという間にのよく感じるところを覚え、そこを的確に刺激し嬲ってきた。賢く真面目で勤勉な人だとは思っていたけれど、その性格がベッドの中にまで持ち込まれるとこういうことになるのかと、快感に体を震わせながらは思った。



 がシャワーを浴びて戻ってくると、降谷は真新しいシーツを敷いて丁寧にしわを伸ばしているところだった。ズボンだけを身につけて、上半身は裸だ。汚れたシーツは丸めて降谷の足元に置いてあった。

「おかえり」

 と、降谷は微笑む。
 は曖昧に笑って、肩にかけたままのタオルで生乾きの髪を押さえた。

 換えのシーツがどこにしまってあるか、なぜ降谷は知っていたんだろう。答えは簡単だ。初めてこの部屋に上がった日、が眠った後で部屋中を家捜ししたからだ。気づいていたこととはいえ、まるでずっとここに住んでいたような仕草でそんなことをされると複雑な気持ちになる。

 降谷を部屋に上げるのはまだ2回目なのにちっとも浮いてない。それどころか、今までこのセミダブルのベッドをひとりで使っていたことのほうが信じられないほど、降谷は部屋に馴染んでいた。

「ありがとう」
「さっぱりした?」
「うん」

 降谷はの顎を持ち上げて触れるだけのキスをする。

「すっぴん、かわいい」
「もういいよ、そういうの」

 は照れ隠しにタオルで表情を隠す。ここまであけすけに褒められるとむず痒くて、どんな顔をしていいか分からなかった。

「パジャマもかわいいね、似合ってる」

 だというのに降谷ときたらの気持ちを知ってか知らずか、ただのTシャツとショートパンツを指してそんなことを言うので、はたまらず降谷の顔面に湿ったタオルを投げつけた。ついでによく冷えたペットボトルも。降谷はそれを難なく受け止めて、当たり前のように「ありがとう」と言った。

 蓋をひねる、カチッと小気味いい音。

 降谷が皺ひとつないように敷いたシーツの上に遠慮なく腰を下ろすと、はベッドサイドテーブルの引き出しを引いて奥の方に手を入れた。取り出したのは、オレンジと白を基調にした紙箱だ。中には錠剤がふたつ入ったブリスターパックがいくつか入っている。

 降谷は水をひと口飲んでからの隣に腰を下ろすと、ふたを開けたままのペットボトルを差し出し、はそれで錠剤をふたつ飲み込んだ。

「準備がいいね」

 と言って、降谷は静かに微笑む。
 は肩をすくめて苦笑した。

「まぁね」

 勢いで抱き合ってしまったので、避妊具をつけ忘れてしまった。ふたりがそれに気がついたのは全てが終わった後だった。

 とはいえ、降谷がの中に注ぎ込んだ精が足の間から流れ落ちるのを見たときには、なんとも言えず寂しい気持ちになった。それがシャワーで排水口に流されていくのを、ついじっと見つめてしまってますますしんみりしてしまい、はそれを振り払って降谷の待つベッドルームに戻ってきたのだ。

 の気持ちを察したのか、降谷はそっと手を伸ばして背中からを抱きしめた。

「ごめん。つい夢中になっちゃって」
「いいよ。私も同罪だし」
「次からはちゃんとするよ」
「お願い」

 の耳元で、降谷がくすりと笑う。

「何?」

 振り向くと、降谷はの顔をのぞき込みながら子どものように笑った。

「いや、次があるんだなと思ったら嬉しくて」
「そういう意味じゃ」
「ん? それじゃどういう意味?」
「もう、茶化さないでよ」

 は降谷の頬に手をあててぐいと肘を伸ばす。その拍子に降谷は顎を反らせて仰向けに倒れたが、を抱く腕をほどかなかったかったのでつられてまで後ろにひっくり返ってしまう。

 が手に持っていたペットボトルのふたは、まだ降谷が持っていた。

「きゃー! 水! ちょっと!」
「うわ、冷たっ!」
「なにやってるの!」
が照れるから」
「零くんがふざけるから」
「せっかくシーツ替えたのに」
「信じられない」

 水をかぶったせいで、は前髪が額に張り付き、降谷は裸の胸をびしょびしょに濡らしてしまう。替えたばかりのシーツに水の染みが広がり、白いシーツが透明な灰色に色を変えた。

 ベッドの上で水浸しになってしまったふたりは顔を見合わせると、どちらからともなく声を上げて笑った。なにがおかしいのか自分達にも分からなかったが、腹の底から笑いがこみ上げて止められなかった。

 笑いすぎて震える手でなんとかペットボトルの蓋を閉める。わずかに残った水がもう悪さをしないようにベッドサイドテーブルに置いて、湿ったタオルで互いの髪や体を拭う。

 幸い濡れてしまったのはベッドの端だけだったので、そこに触れないように片側に寄って眠ることにした。体をぴったり寄せ合っていれば問題なかったし、その窮屈さは初めての夜を迎えたばかりのふたりにはむしろちょうどよかった。

「ねぇ、零くん」

 は、降谷の腕を枕にしながら囁いた。

「ん?」
「まだちゃんと言ってなかったなと思って」
「何を?」
「私も零くんが好きだよ」

 降谷はうっそりと笑いながら、を腕の中に閉じ込めるように抱きしめる。
 事後の気だるい体に眠気がやってくるのはあっという間だった。ぼんやりとかすむ意識の中で、降谷は景光のことを思う。

 もし夢で会えたなら、をかけて本気の喧嘩をしようと思う。必ず降谷は勝つだろう。何せ生きているのはこちらだ。負ける理由は微塵もない。そして言ってやるのだ。お前が心から惚れた女を幸せにできるのは、この俺しかいないのだと。

 景光はきっと笑って、祝福してくれるだろう。





20191111