朝が好きになれるおまじない





 朝は嫌いだ。暖かくて心地よいふわふわのベッドを私は世界で一番に愛しているし、休日の二度寝三度寝が好きすぎてしょうがない。二日酔いでちょっと痛む頭を枕に縫い付ける情緒。カーテンの向こうから淡く差す朝日の疎ましいことといったら、もう。

 なんて言っても、現実はそううまくいかないもので、毎朝6時に起きなければ仕事に間に合わない。シャワーを浴びて服を着てメイクをして朝ごはんの準備をするだけでもうぎりぎり。本当は優雅に朝のコーヒーを飲みながら新聞を隅から隅までチェックしてのんびり歯磨きをしてゆったり家を出たいのに、理想と程遠い現実では今日も少しだけ朝食のトーストを焦がしてしまう。

「俺は朝はごはん派だっつってんのに」

 テーブルを睨み下ろして、繋心はぼそりという。早朝から畑に出ていたせいで汗ばんだ額、日に焼けた腕、土で汚れた作業服は玄関のハンガーに引っ掛けてある。

「私はパン派なの」
「そうかよ」

 洗面所で手と顔を洗ってきた繋心の体からは、それでも朝の畑の湿った土の匂いがするような気がした。

 小さなアパートはふたりで住むのにはほんの少し狭くて、こんがり焼けたトーストとその上でしっとり溶けるバターの香り、インスタントのポタージュと、こればかりはきちんと豆から挽いたコーヒーの香りがあっという間に充満する。

 いくら朝が嫌いだとはいえ、この匂いに身体中を包まれると多幸感を覚えるのがいつも不思議。

「俺の目玉焼き、なんか形おかしくねぇ?」
「失敗しちゃった。まぁ、味は同じよ」




20170205




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