あのころといま












同じくらいの背丈の子どもが2人、写真の中で笑っている。ひとりは大きな野球帽をかぶった男の子で、もうひとりはかわいらしいワンピースを着た女の子だ。思う存分あそび終わったあとなのか、ふたりとも汗だくで服はところどころ汚れている。とても仲のいい友達同士だということが、この写真を見れば誰にでもすぐ分かるだろう。

「誰これ?」

榛名元希は写真を見下ろして言った。

「あんたとちゃんよ。見ればわかるでしょ?」

と、元希の母が答えた。

そう言われてみても、元希はいまいちぴんとこない。写真の中の少年と今の自分とは似ているところひとつないように見える。幼馴染のだという少女も、記憶の中にあるの姿とはまるで一致しない。

「おれらってこんな顔してたんだっけ?」

「なにばかなこと言ってんの?」

「だって、覚えてるのと違うんだもん」

「子どもの頃の記憶ってあいまいでしょう。成長すれば顔なんかどんどん変わるわよ」

「へぇ。そういうもん?」

元希は納得がいかない、といわんばかりにじっと写真を見ていた。どうしても違和感がぬぐえなくてもやもやした。自分の記憶と写真では何かが違う。何が違うのかが、分からない。まるで間違い探しゲームだ。

いつまでも写真を見つめて眉間にしわを寄せている元希を見て、母は、

「変な子ねぇ」

と言って、嘆息した。



******





「わぁ、すごい! なつかしいー」

写真を見せるなり、は感嘆の声をあげた。

「そんなに感動するようなもん?」

元希はそれが心底不思議で、まゆげをハの時にまげる。

「感動するよ! 元希にもこんなかわいい頃があったんだねぇ」

「かわいくねぇよ」

元希はソファーにのけぞるように深く座っていた。は写真の両端を両手で大切に持って、腕を伸ばしてまじまじと見つめている。部屋の中だというのに、写真を高々とかかげてくるりと回ったりしているので、カーペットに足を引っ掛けて今にも転びそうだ。

「そんなにはしゃぐことかよ?」

「だってこんなのもらえるなんて嬉しい! ありがとう!」

「俺じゃなくておふくろに言えよ」

「じゃぁ、おばさんにもありがとう!」

はステップを踏むように元希のとなりに腰を下ろす。スカートの裾がひるがえって、丸い膝があらわになった。今日のはデニムのワンピースに鮮やかなピンクのカーディガンを合わせている。いつも見ている学生服とは雰囲気が違って、元希は思わず目線をそらした。

「この頃ってよく一緒に遊んでたよね。元希覚えてる?」

「あぁ? 何を?」

「何して遊んでたとかさ、そういうの。この頃から野球してたっけ?」

「さぁなぁ」

「ちょっと、真面目に答えてよ。いくつで野球はじめたとか、覚えてないの?」

「少年野球のチームに入ったのは小3の時だな」

「そういうんじゃなくて、初めてボールに触った日とか、そういうのは?」

がぐっと身を乗り出して迫ってくるので、元希は少しうんざりした。今日のはよくしゃべる。元々口数が多い方ではないのに、写真1枚でどうしてこんなにハイテンションになるんだろう。

「なんでそんなこと気にすんだよ。どうでもいいだろ」

元希が面倒くさそうにそう言うと、はむっと唇を尖らせた。

「どうでもいいなんて言わなくったっていいじゃん。子どもの頃の思い出話したかっただけなのに……」

「だって俺あんま覚えてねぇんだもん」

「もうちょっと付き合ってくれたっていいじゃん」

「お前だって覚えてねぇから俺に聞くんだろ? お互い様じゃん」

「……それはそうだけどさ。なんか、今日の元希、冷たい」

「なんでそうなんの?」

が急に立ち上がって、すねた子どものようにどこかへ行こうとするので、元希もつられて立ち上がる。すると、見える景色ががらりと変わって、元希は唐突に全てを理解したような気になった。

当たり前のことだけれど、元希はよりずっと背が高いので、立ち上がった瞬間、のつむじが見下ろせた。子どもの頃とは全く違う視野だった。



名前を呼んで、肩を掴む。たったそれだけのことではよろめいて、転んでしまった。

「きゃっ」

その非力さ。元希を見上げる視線すら弱々しいようで、元希は謝るよりも先に思わず言った。

「……お前、なんか、小さくなった?」

思ったままをつぶやいたら、は小鳥のように瞬きをした。

「元希の方が、大きくなったんでしょ?」

は呆れたように笑った。

考えるまでもないことだけれど、言い分はが正しい。けれど、元希はどうしても納得がいかず、「そうか?」と首を傾げることしかできなかった。

は、小さくなった。写真の中の元希とは同じように汚れた服で、同じように笑っている、きっと同じように遊んで、同じように転んで傷を作って、同じように笑っていたのだろう。と喧嘩をして負けたこともあったかもしれない。

けれど今となっては、は腕力で元希には敵わない。考えなくともわかるそんな簡単なことが、子どもの頃の写真でまざまざと思い知らされた。

「元希?」

に顔を覗き込まれて、元希は思わずから手を離した。

「どうしたの?」

「……なんでもねぇ。大丈夫か?」

「大丈夫だけど、急にびっくりした。力強いんだから、手加減してよね」

「悪かったよ」

に手を貸して立たせてやると、はスカートの裾を直して元希を上目遣いで見上げてきた。まつげが扇のようにひらりと瞬いて、たったそれだけのことで元希は耳まで赤くした。



20141222





ネタとしては既に使ってるんですけど、不完全燃焼だったので。