買い物帰りに雨に降られたので、
はコンビニの軒下で雨宿りをしている。
そう雨脚は強くないから走って帰ってもいい。けれど、勤め先の真選組隊士がわざわざ携帯電話で
に連絡をとって、迎えに行くと豪語したのでおとなしく従うことにした。人の親切は素直に受けとる方が賢い。
「攘夷志士たるもの、自己の体調管理ひとつまともにできぬようでは、国を救うなど土台無理な話だ。というわけで俺も迎え待ちだ」
「誰も聞いてないわよ、桂くん」
の隣には桂がひとりで立っている。今日はエリザベスという得体の知れないペットはいない。きっと雨に弱いんだろうな、と
は勝手に思い込んでそう決めた。
「もうすぐここに真選組隊士が来ると思うんだけど、大丈夫?」
「大丈夫なものか。というか、
の方こそ大丈夫なのか。俺と一緒にいるところを見られたら真選組にいにくくなるのではないのか?」
「いにくいどころか最悪追い出されるかもね」
「全然大丈夫じゃないじゃないか」
「なんとかなるでしょ。私は悪いこと何もしてないし。これだけのことで疑われないわよ。それくらいの信用も人望もあるわ」
「
。お前今ものすごく性格悪いっぽい顔してるぞ」
「世渡り上手と言ってよ」
軒から大きな雫が落ちてきて、足元の水溜まりにいくつもの波紋を作る。雨の音は絶えず、濡れた空気を揺らしていた。路に人通りは少なく、たまに通る傘の色は一様に暗かった。
「……そういえば、桂くん」
「なんだ、どうした?」
「今日って松陽先生の命日じゃない?」
桂は目を見開いて
を見た。
は道行く数少ない人と傘を眺めていて、ぼんやりと瞼を伏せている。力が抜けた、どこか呆然とした表情だ。
桂は聞いていいものかどうか迷って、それでも聞いた。大切なことだった。
「……忘れていたのか?」
「桂くんに会って思い出した」
桂は
の目線の先を追うように視線をずらした。
が、忘れてはいけないことを忘れてしまった自分をひどく後悔していることが分かったから、これ以上何か言葉をかけようとはとても思えなかった。
は松陽の義理の娘で、本当の娘以上に可愛がられて育った。寺子屋では、銀時や桂や高杉達が学んだ思想や剣術ではなく、女性としての身の振る舞いや教養を学んでいた。それぞれ方法は違っても、同じように生きる能力を養われた。
だからこそ今、
は真選組の家政婦として働くことができているし、桂達との関係を隠し通せるほどの賢さも持ち合わせている。
「最悪だわ。何やってるのかしら、私……」
「
……」
はぼんやりしたまま、雨脚を眺めるように目を細めた。その目が潤んで見えたのは、雨のせいか、それとも涙のせいか、桂には分からなかった。
「……今日は花でも買って帰るといい。そうしろ」
「そうね、そうするわ」
今日は雨の日だった。
松陽が死んだあの日、空はどんな色をしていたのだっただろうか。記憶にはあるけれど、もう映像としては眼裏にはよみがえらない。
それくらい、遠い昔の話。
20080305