夜空の月灯りを障子が柔らかく透かして、部屋は照明を点けなくとも十分に明るい。少なくとも、抱き合うのに困らない程度には。

土方は荒い息をしながら、四つん這いになって腰を突き出しているの背中を険しい目で見下ろした。

の肌は明るい闇の中で、冬の夜に地上を明るくする雪のように淡く白い。雪と違うのは、触れるとじわりと熱く、柔らかくて弾力があるところだ。腰をぶつけるとぱんっと軽い音を立てて弾き返してきて、瑞々しく活き活きとしている。その美しさに感動すら覚えて言葉も出ず、土方の口からはただ呻き声が漏れた。腰から這い上がってくる波が言葉を奪う。

あっ、あっ、と、土方の動きに合わせては喘ぐ。少し角度を変えると声の調子が変わるのがおもしろくて、思いつく限りのことなんでも試してみたくなる。

肘を掴んで引っ張ると、は腰を高く突き上げたまま背中を弓のようにしならせた。

滝のように背中に流れ落ちる黒髪が揺れて、着物がずり落ちて露わになった小さな肩が淡く光を放つ。白飴のように滑らかな肌は、口に入れたら本当に甘い味がしそうで、土方はたまらずそこに唇を這わせた。飴のような甘さと、汗ばんだ肌のしょっぱい味が混ざって、想像以上にいい味だ。肌を舐め上げると、は嬉しそうに悲鳴をあげてきつく土方のものを締め上げた。

甘く、熱く、力強く、そしてしなやかに土方の体を受け止めるの体からは花や香水なんかよりもずっといい匂いがした。
が顎を上げて土方を見る。だらしなく開いた唇から、呼吸と一緒に声が溢れる。薄く桃色に染まる肌、熱に潤んだ瞳、その黒いふたつの双眸は、まるで海の底で光る黒真珠のようだ。

土方は光り物に興味はないし、ぎらぎら光る石ころで身を飾りたがる女や金持ちの気持ちなどちっとも分からない。金持ちの道楽、自分には縁のないものだと思う。

けれど、の目の中で黒く光る真珠には目が眩んだ。これだけは絶対に手に入れたい、誰にも渡したくない、強い欲望が腹の底から這い上がってきていてもたってもいられなくなる。

海の底に沈んだ黒真珠に死に物狂いで手を伸ばすように、土方はを抱きしめる腕に力を込めた。

力加減を忘れた土方の腕に、は肺が潰れそうになって呼吸にも苦労したけれど、背中から体を包みこむように抱いてくれる土方の体が暖かくて心地良かった。硬く大きくそそりたった土方のものが自分の中でさらにたくましさを増して、そんなになるまで欲情してくれているのだと思えばただ嬉しい。

体は悲鳴をあげるように反応して、濡れて震えて熱くなっている。飲み込みきれなかった唾液が唇の端から垂れてしまったけれど、汚いと思う余裕もない。恥ずかしいとか、そんな気持ちはとっくにどこかに吹っ飛んでしまった。

自分を見つめる土方の切れ長の目。いつも瞳孔が開き気味で、今はその中に泣き出しそうなのを堪えるような必死さが滲んでいる。紅潮した頬、熱い体、腕に浮いた血管がどくどくと脈打っているのが触れたところから伝わってくる。煙草の匂いのする喘ぎ声は男らしく荒っぽいけれど、自分でも不思議に思うほどかわいくて愛おしくてしかたがなかった。

闇の中で光る瞳は、冬の夜空で鋭く光る星のようだった。

お互いの息が混ざり、息に混ざった声が絡み合って、どっちがどっちの声だか分からない。土方の呻き声はの喘ぎ声で、の喘ぎ声は土方の呻き声だった。

ふたりがひとつになる感覚を思う存分味わって、何度も体を震わせて、もう動けなくなるまで体を擦り付けあって、そうまでしても離れがたくていつまでも体を重ねたままでいた。母親に甘えて離れない子どものようだなと、はぼんやりとした頭の片隅で思う。

土方が目を閉じて動かなくなったので眠ったかと思い、がそっと頬を撫でてみるとぱちりと瞼が持ち上がる。まだ眠っていないよと答えるように土方の手がの腰を撫でる。言葉もなくそういうことを何度か繰り返した。ただそれだけのことがにはしみじみと楽しかった。

真夜中だというのに、部屋の中は驚くほど明るい。お互いの表情が何の苦もなく見て取れて、青い海の中にふたりで沈んでいくようだ。月灯りが照らす海の底で、イソギンチャクの襞の中で体を寄せ合って休む熱帯魚。

を見つめる土方の目に、何か深く温かいものを感じ取って、は微笑みを返して土方の胸に頭を埋めた。怖いほどの安心を土方から与えられている。胸がいっぱいで、はち切れて爆発してしまいそうだった。

夜が明けてしまうのが惜しい。眠ることすらもったいない。

せめて土方より先には眠るまいと妙な意地を張って、は布団の中で土方の筋肉質な足に自分の足を絡めた。






20210102