「失礼します。土方さん、いらっしゃいますか?」

がそう声をかけながら障子を引くと、そこに土方の姿はなかった。
部屋は散らかっていた。机を中心に、書類の山が乱立していて、その内のいくつかは雪崩を起こして床の間の前まで散らばっている。灰皿には吸い殻、湯呑には飲みさしのお茶。墨を含んだままの筆が硯の横に寝かせてあり、書類が書きかけのまま放置されている。つい今しがたまでここにいたようだ。

きっと手洗いにでも立っているのだろう。はそう察して、散らかった書類を拾い集めた。

土方は、敵だけでなく味方にも恐れられるほどずば抜けた腕を持つ剣の使い手だ。ただ強いだけの人間なら隊士にも大勢いるけれど、土方のように文武を兼ね備えている者はめったにいない。だからこそ、土方が面倒な仕事を一手に引き受けることになる。

書類の一枚一枚は薄い紙だ、けれどそれは束になった途端にずっしりと重くなる。それが土方の背負っている責任の重さだ。
は尊敬の気持ちを持って、そろえた書類を丁寧に机の傍らに積み直した。

と、机の下に何かが押し込まれているのに気がついた。こんなところにまで書類が紛れ込んでいたらしい、机の下に手を入れ、手探りでそれを引っ張り出した瞬間、は熱いものに触れたように手を跳ね上げてしまった。ばさばさっと音を立てて畳の上に散らばったのは、雑誌の束だった。一番上に重なった雑誌の表紙に、人形のように整った顔立ちの女性があられもない格好で微笑んでいる。その周りを【JKから若妻まで30人の美女イキまくり!】【彼にナイショでヌードモデルに応募してきた女子大生・禁断の緊縛プレイ!】【働くお姉さんを犯る!】などと、卑猥な言葉がぐるりと囲んでいた。

は口元を抑えて、喉まで出かかった悲鳴をなんとか飲み込んだ。土方がこういうものを楽しむタイプだったとは、意外だ。剣の腕も立ち、頭も切れる。その能力を全て真選組のために捧げ、敵にも味方にも恐れられている鬼の副長。そんなイメージとはあまりにかけ離れていて、受け止められない。

何も見なかったふりをして元の場所に戻しておいた方がいいだろうか。けれど、目を離せなかった。

表紙のモデルが、まるで自分を誘うように微笑んでいる。何かに操られたように恐る恐るページをめくったの目に飛び込んできたのは、見開き一面のグラビアだった。肌が透けるほど薄い生地の着物をまとった女が、両腕を縄で縛り上げられている。抜けるように白い肌、豊かな黒髪、縄が肌に食い込んだ女体はいかにも柔らかそうで、同性から見てもため息が出てしまうほど美しく、目を奪われてしまう。

この写真が自分の何を引き付けているのか、分からなかった。分からないからこそ、それを探り出したくて夢中になってしまったのかもしれない。

だから、廊下を踏みしめる足音が近づいてくることに気づかなかった。

? 何してる?」

土方が戻ってきた。

驚きのあまり、手の中から雑誌が躍り出て大きな音を立てる。土方は畳の上に落ちたものを見た瞬間、青ざめて怒鳴った。

「何見てやがる!?」
「すいません! あの、散らかっていたので片付けようとしただけなんです!」

はとっさにそう言い訳をしたけれど、土方の慌てようときたらの比ではなかった。ずかずかと部屋に入ってくるなりその本を取り上げ、乱暴に押入れの中に放り投げる。

スパン! といい音をさせて閉じた襖を背に、土方は大声で怒鳴った。

「かかかか勘違いするなよ! あれは、若い連中が隠し持ってた奴を没収したんだ! 俺のもんじゃねぇ!」
「え、そうなんですか? じゃぁなんで机の下なんかに?」
「た! たまたまだ!」
「良かったら、資源ごみに出しましょうか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! 屯所からそんなもん出したらご近所に何言われると思ってんだ!」
「あぁ、それもそうですね」
「俺がやっとくから! お前はもう構うな!」
「す、すいません!」

は拾い集めた書類を揃え、顔を伏せたままそそくさと部屋を出ようとした。
が、その瞬間、土方に会いに来た本来の目的を思い出す。

「あの、土方さん、すいません」
「何だよ!?」
「さっき定食屋の女将さんから電話があって、土方さんのお財布を落とし物として預かってるそうなので、取りに来て欲しいんだそうです」
「は?」

土方は慌てて隊服のポケットを叩いて目を丸くした。どうやら今まで気づいていなかったらしい。

「それだけです。あの、それじゃ、失礼しました!」

そうしてやっと、は逃げるように土方の部屋を後にした。
たった今見たものが脳裏に焼き付いて離れず、胸がどきどきしてしょうがなかった。



土方はその日、早々に仕事を切り上げて、行きつけの定食屋に向かった。預かってもらっていた財布を受け取り、そのついでに晩酌にする。仕事はまだ残っていたが、山崎に押し付けるだけ押し付けて逃げてきた。あんなことがあって、平常心を保って仕事ができるわけがない。

酒を煽りながらため息をついた土方を見て、女将が言った。

「どうしたんです? ため息なんかついて」
「別に、何でもねぇよ」
「あぁ、分かった。彼女と喧嘩でもしたんでしょう?」
「だから何でもねえって」
「あら、でも顔に書いてありますよ」

この定食屋は土方の行きつけだ。女将とも付き合いは長く、女将の夫の葬式にも参列したほどの間柄である。女将はのこともよく知っているが、さすがに今日起きたことを正直に話すことはできなかった。

あの雑誌は、本当に若い隊士から没収したものだ。それが真実なのだからそう言って堂々としていれば良かったのに、どうしてあんなに取り乱してしまったのか。

なぜなら、土方にもある負い目があったからだ。雑務に追われて煮詰まった真夜中のことだ。やってもやっても終わらない仕事に心底うんざりしていて、何でもいいから気晴らしがしたかった。そんな時にふと、あの雑誌が目についた。後で山崎に処分させようと思っていたのだが、他の仕事にかまけて後回しにしていたのだ。

ほんの息抜きのつもりだった。手慰みにぱらぱらとページをめくり、自慢げに裸を見せつけてくる女達の写真をなんともなしに眺めた。

ふと、あるページに目が留まった。女が男と交わる姿を連写した特集で、男の体に跨っている裸の女は、朱色の縄で体を戒められている。弓のようにしならせた腰を男の手が乱暴に掴んでいて、あおり文によると、抵抗する女を無理矢理犯すという演出らしい。

土方は思わず眉間に皺を寄せた。縛られた女、その髪型や、肩の線、腰のあたりの肉付き、それらを俯瞰した時の雰囲気が、どことなくに似ていたのだ。

もちろん全くの別人には違いないし、よく見れば大して似ていなかったのかもしれない。けれど、土方は疲れていた。夜中まで書類とにらめっこしていたせいで目がしょぼしょぼしていた。その目に映ったものよりも、それを通して浮かんだ印象の方がずっと強烈に胸を打った。

きつく縛り上げられ、顔の見えない男に乱暴に抱かれている女に、の顔が重なった。まるでが自分の知らない誰かに凌辱されているのを見ているような気分になってしまい、腹立たしさにも似た熱が腹の底から湧き上がってくる。その熱はゆっくりと腰の奥に火を灯し、土方の理性をほんの少し狂わせた。

その晩、土方は写真を眺めながら自慰をした。

「何があったのか知らないけど、喧嘩は先に謝っちまった方の勝ちだよ」

女将の言うことはもっともだ。は散らかった部屋を片付けようとしただけで、何も悪くないのだから。

「やっぱり、そうだよな」

土方は酒をちびりと舐めてひとりごちた。



屯所に電話をして呼び出すと、はすぐに来た。

待ち合わせ場所はふたりが使い慣れた茶屋だ。店主に簡単な事情を説明したら、いつもよりいい部屋を用意してくれた。
店に入ってきたは、どことなく不安げだった。それも当然だろうと、土方はできるだけ優しく声をかけた。

「急に悪かったな」
「いいえ。遅くなってすいません」
「仕事は?」
「大丈夫です。土方さんは?」
「俺は早く済んだんだ」

それを聞いて、はいたずらっぽく笑った。

「山崎くんがぼやいてましたよ」
「いいんだよ、あいつには言わせておけば」

いつもと変わらないの笑顔に、土方は内心、拍子抜けした。こんな風に笑ってもらえなくなるくらい酷く傷つけたかと思っていたのだ。ふたりきりの晩酌は、意外なほど穏やかな時間になった。まるで今日の出来事は全て夢だったのではないか、そう思えてしまうくらいだった。

一体、何を考えているんだろう。の笑顔の裏に何か隠れていやしないか。土方は、の口ぶりや表情に目を凝らして、手掛かりを探った。怒りでも、悲しみでも何でもいいから、の本当の気持ちを知りたかった。下品な雑誌を隠し持っていたことをなじってくれて構わないし、怒鳴られるいわれはないと言い返して欲しかった。

そうしてくれれば、平身低頭謝って、許しを請うことができる。そのきっかけが欲しかった。

互いにほどよく酔ったところで、二階の座敷に上がる。行灯にはすでに火が入っており、橙色の光が座敷に満ちていた。ひとつの布団に枕がふたつ並んでいる。

「お風呂に入ってきてもいいですか?」

土方はそれを許さず、の体を抱え上げると強引に布団に転がした。は酔いの回った人間特有の力の抜けた声で笑いながら、礼儀正しく抵抗するふりをする。その両腕を布団に縫い付けて、土方はの顔をのぞき込んだ。

「お前、何か言いたいことないのか?」

ふと、の微笑みがみるみるしぼんだ。やっぱり何かをため込んでいるのだ。
土方はの腕を引いて上体を起こし、誠意を示すつもりで真正面から向き合った。

「言えよ」

は視線を落としたまま、ぽつりと言った。

「土方さんは、ずるいですね」
「何が?」
「言いたいことがあるのは、土方さんでしょ?」
「それは……」

土方は苦虫を嚙み潰したような顔をして、唇を噛んだ。

「今日は、怒鳴ったりして悪かった」

は照れ臭そうに笑った。

「びっくりしました。いろんな意味で」
「あれは、本当に、若い奴から没収したんだ」
「別に、疑ってませんよ」
「本当かよ?」
「はい。でも、どっちでもいいんです」
「どっちでもって?」
「だって、男の人はしょうがないでしょう」

土方は首を傾げた。

「皆であぁいう本を見て、どんな女性が好きかとか、そんな話で盛り上がったりするんでしょ。そういう会話で人間関係を深めたりするんじゃないんですか? そういうのをどうこう言うつもりはないんです。ご自由にしていただいて、いいんです」
珍しく、は饒舌だった。酒の力だろうか。けれど、その声にはどこか諦めにも似た寂しい気配が滲んでいる。物分かりのいい態度を見せようとしているのだろうが、どこか言い訳がましい。これ以上深入りしてもらいたくない、この話を早く終わらせたい、そんな焦りを感じる口調だ。

土方は一方的にしゃべり続けているの口元をじっと見つめながら、ふと思った。

土方が部屋に戻ると、は雑誌を膝の上に開いていた。土方があの雑誌を隠していたことに気づいただけではない。もあれを見たのだ。

土方はの声を遮って、口づけをした。

「もう分かったから、黙れ」

唇に舌をねじ込んでの声を奪う。そのまま体重をかけて押し倒して、帯を解く。そして、帯締めの赤い紐をの腕に巻きつけた。

「え? 土方さん、何してるんですか?」
「ちょっとな」
「ちょっとって、え、何?」

あっという間にの腕を後ろ手に縛り上げた土方は、そのままの背中に覆い被さってその体に手を滑らせた。

「やっ! 土方さん! 待って! これ何?」

は訳が分からず、じたばたともがく。
土方はの耳元に唇を押し当てて囁いた。

「腕、痛くないか?」
「い、痛くはないですけど、あのなんで急にこんなの……」
「たまには気分変わっていいだろ」
「えぇ?」

熱い舌をの背中に這わせると、抵抗する声はあっという間に艶っぽく濡れる。なんだ、もまんざらではないじゃないか。ほっとして、土方は手のひらに熱を込める。柔らかいの胸に指を埋めるように揉みしだき、手のひらに吸い付くように瑞々しい肌の感触を堪能する。

腕を軽く縛っただけなのに、は驚くほど不自由を感じているようだ。土方の腕の中、体を弄られるたびに体をよじる。手が空いていれば、布団なり土方の着物の裾なりにしがみついてくるところだが、それができずに支えを失って不安なのかもしれない。

土方は安心させるように、の頬に口づけをして笑いかけた。

「大丈夫か?」
「は、はい」

は、もう顔を真っ赤にしていた。まるで初めて経験する小娘のように不安そうな顔をしていて、かわいくてたまらない。腰の奥から熱くて、もう仕方がなかった。

「いいか?」
「はい」

腕を縛ったままのを仰向けに転がして、膝を掴んで足を開く。割れ目に指を沿わせて、土方ははっとした。今日はずいぶん密の量が多い。触れる前から後ろの方まで垂れている。もそれを分かっているんだろう、恥ずかしそうに唇を噛み締めてそっぽを向いている。

「腕縛られて興奮したか?」

顔を覗き込みながら尋ねれば、はますます顔を赤くした。

「なんでもいいでしょ」
「正直に言えよ」

土方は着物を脱ぎ捨て、下着を蹴飛ばすように脱ぐ。黒くそそり立ったそれが勢いよく飛び出しての下っ腹にぶつかる。自分の手で少ししごいてみて、土方は自嘲した。いつもより興奮しているのは自分も同じだ。

の入り口に当てがってぐいと腰を進めれば、の蜜がぬらりとまとわりついてするすると奥まで迎え入れてくれた。腰がずきずきするほど気持ちが良くて、たまらずため息が溢れる。

はうっとりと目を細めて土方を見上げている。口づけを交わしながら、赴くままに動いた。

あの雑誌、ふと目に留まったに似ている女の画像が、頭の中で本人に切り替わっていった。後ろ手に縛られた腕がよく見える写真、後ろから、下から突き上げられて、腰をくねらせている。汗がうなじを伝って、後れ毛が肌に張りつく、その産毛の一本一本。体の動きに合わせて揺れる髪は流れる水のようで、甘く痺れるような素晴らしい匂いがする。

夢中になっての体を堪能した。

「あっ、待ってっ、やあっ、あぁっ!」

の体がびくびく痙攣して、土方のものを引きちぎりそうな強さでぎゅっと締まった。

「なんだよ、もういっちまったのかよ」
「ご、ごめんなさい、だって」
「そんなに良かったか?」

は苦し紛れに頷いた。

「俺、まだまだだからもう少し付き合えよ」
「分かりましたから、あの、腕、ほどいてくれません?」
「それはだめだ」
「えぇ、なんで?」

が泣きそうな顔をしてそう言うから、嗜虐心をそそられて土方の口元に笑みが上る。は何か怖いものを見たような目をして、いやいやと首を振った。が言いたいことはなんとなく分かったけれど、土方はそれに応えてやる気はさらさらなかった。

体位を変えて、強く腰を打ち付ける。それに合わせてが歌うように喘ぐのを聴きながら、土方はただ自分の独占欲を満たすためにを抱く自分の愚かさに、虚しさに似たものを感じずにはいられなかった。

写真の中の女にを重ねて、勝手に嫉妬してを巻き込んでいる。それを知ったら、はきっと呆れるだろう。
今日ののよがりようは尋常ではなかった。何度体を震わせただろうか、相手をしている土方も心配になるくらいで、ただ腕を縛っただけでこんなことになるとは思わなかった。

腰を跳ねあげるように痙攣したがさすがに哀れになって、土方はの背中から寄り添いながら声をかけた。

「おい、大丈夫か?」
「あ、はい」

その声はほとんど枯れていて、弱々しい。そこでやっと、土方はの腕を戒めていた帯締めを解いてやった。ゆるく結んだつもりだったが、手首には赤くくっきりと帯締めの痕が残ってしまっていた。

「ごめんな」

土方は謝りながら、の手首をさすった。が、はその手を振りほどき、土方の首に両腕を回して抱きついてきた。その勢いに、「うぉ」と、思わず声が出てしまう。

は腹の底を震わせて愉快そうに笑った。

「あぁ、やっとこうできる」
「お前な」
「私、やっぱりこうしてくっついてするのが好きです」
「あんまくっつくと動きにくいんだけどよ」

くすくす笑うを、土方は膝の上に抱え上げるようにして抱いた。あんなに痙攣するほど感じまくっていたくせに、まだ笑う余裕があるとはおみそれしたものだ。

笑い声が、優しく耳元をくすぐるそよ風のように心地良い。

「なぁ、
「はい?」
「あの雑誌どこがおもしろかった?」
「……私、読んでません」

目が泳いだ。嘘だ。
土方はにやりと笑って詰め寄った。

「とぼけるな」
「ちょっと、眺めてただけです」
「どうだった?」
「どうって、別に」
「別にってことねぇだろ」
「少しぱらぱらめくってただけなんですってば」

は恥ずかしいのと悔しいのが混ざったような顔をして土方の胸を叩き、それは可愛らしく怒って見せた。

「もう、何を言わせたいんですか」
「そんなんじゃねぇよ」
「いじわる、ばか」
「照れるなよな」

からかうのはこれくらいにするか。土方は口を噤むに見切りをつけて、さっきの続きに取り掛かる。腰の奥の熱に任せて体を動かせば、の腕が、足がぎゅっと土方の体に絡みついてきた。

温かく柔らかく、甘くいい匂いのする体に鼻先を押しつけると、も嬉しそうな悲鳴をあげて狂ったようによがった。
紙の上の偽物がどんなあられもない姿を晒しても、生身のには敵わない。

熱い精をの体の奥に注ぎ込みながら、土方はそんなことを思った。



すうすうと規則正しい寝息を立てて眠っている土方の吐息は、寝しなに吸った煙草の苦い香りがした。はその香りを胸いっぱいに吸い込むように深呼吸をしながら、土方の腕の中でまどろんでいた。体中が甘く心地よい倦怠感に満ちている。けれど、まだ体の芯が冷めず眠れなかった。

土方の寝顔は、まるで幼い子どものようだ。ほんの少しだけ開いた唇、黒く密度の濃いまつげ、すっと通った鼻筋、尖った頬。どこを見ても飽きることがなくて、土方がよく眠っているのをいいことに穴が空くほど、まじまじと眺めてしまう。

を抱いている間は、まるで怒り狂った獣のように激しい顔をしていたくせに、眠りに落ちた瞬間、こんな無防備な表情を見せるなんて。こういう顔を見るたびに、土方のことがますます好きになってしまう。土方に抱かれている間、はあの雑誌で見た赤い縄で体中を縛り上げられた女のことを考えていた。は腕を縛られただけだったけれど、まるであの写真と同じことをされているような錯覚を覚えて、ひどく興奮してしまった。どうしてなのか分からないけれど、頭の中がいやらしい想像でいっぱいになって、どうしようもなかった。

土方もそれを分かって、あんなにしつこく意地悪なことを言ったような気がする。どうして男の人は、女の口から卑猥な言葉を聞きたがるんだろう。

何にせよ、つまらない行き違いを抱えたまま日を跨がずに済んでよかったと思う。土方から電話をもらった時、嬉しかった。土方を怒らせたまま、安心して一日を終えることはできそうになかったから。

ふと、土方が身じろぎをして、を抱く腕に力がこもった。むにゃむにゃと聞き取れない寝言を言いながらぎゅっと強く抱き寄せられて、は幸せで胸がいっぱいになる。

土方の胸に耳を押し当てると、とくとくと、穏やかな心臓の音が聞こえてくる。その鼓動を聞きながら、いつまでもこの人と仲良く過ごしていたいと、祈るような気持で思った。






20210102