夢本【女は帯も謎も解く】のあなうめです。著しくネタバレです。本を読んでいないと何のことだか分からないところもあると思いますのでご了承ください。
土方さんのキスは、煙草とお酒と、ついさっき一緒に食べた焼き鳥の甘じょっぱさが混ざった味がした。
木の葉に遮られて月の光も届かない闇の中、距離のないところに立っているはずの土方さんの鼻先も見えない。けれどその分、視覚以外の感覚が妙に冴える。土方さんの薄い唇の冷たさ、煙草の匂いがする吐息、呼吸と互いの唇を貪る水音。その全てで土方さんの存在を感じられた。
指を絡めて繋いだ手がざらざらした木の幹に押し付けられて少し痛かった。
「んあっ」
と、気の抜けた喘ぎ声を上げた私を、土方さんが笑う気配がする。
「あんまりでかい声出すなよ」
声は私の耳元で意地悪をするように囁く。背中がぞくぞくして、思わずしがみつくように土方さんの足に自分の足を絡めてしまう。
「だって」
「誰かに気づかれたらどうすんだよ」
「やだ、嫌なこと言わないで」
「だったら我慢しろ」
言われて、私はぐっと唇を噛みしめる。土方さんはそこになだめるようなキスを落として、私の体を百八十度回転させた。
木の幹に両手をつく格好になって、後ろから着物と襦袢をたくし上げられるのが分かる。夜風が足元にひゅうひゅうと滑り込んできて肌が粟立った。少し寒いような気がしたけれど、土方さんの体を近くに感じてそれはすぐに気にならなくなった。
「持ってろ」
と、たくし上げた着物の裾を押し付けられたので胸のあたりで抱え込む。露になった肌をぞわりと撫でる土方さんの手の熱さに、思わず腰がびくりと跳ねた。
「ちゃんと見えてる?」
「見えなくても分かる」
と、土方さんの手がするりと足の間に滑り込んできて、指先が下着をずらして迷わず私の入り口を探り当てた。ずぶ、とその中に潜り込む指先の熱さに体が震える。腿の内側を愛液が滑り落ちる感触にますますぞくぞくして、土方さんの手に押しつけるようにお尻を突き上げてしまう。まるで自分から求めているようなそぶりをしてしまって恥ずかしい。土方さんが背中にのしかかるようにして耳元で物を言うからますます羞恥心が煽られる。
「もうこんなに濡れてやんの」
「だって」
「そんなに良かったのか?」
「はい」
「何が良かったのか教えろよ、もっとしてやるから」
「何って、そんな」
「言わねぇと挿れてやんねぇぞ」
土方さんの指が、私の中を出たり入ったりを繰り返している。その度に中から愛液が溢れて卑猥な水音が立ち、視覚を奪われた闇の中ではその音がやけに耳についた。
それに加えて、土方さんの声。
普段とは比べものにならないほど色気にあふれていて、耳から凄まじい快感に襲われてどうにかなりそうだった。誰にも聞こえないよう吐息だけで囁かれる挑発的な言葉、わずかに語尾がかすれるのは土方さんもひどく興奮していることの表れだろう。
荒い息はまるで猛る獣のようだ、このまま背中から襲ってこの身を食いちぎろうとでもいうような強烈な支配感、自分の命をまるごと土方さんの前に投げ出して好きに料理されるのを待っているような気持ちがした。
「何か、しゃべって」
「あ?」
「何も見えないから、せめて、声、聞かせてください」
「やりながら何しゃべれって言うんだよ?」
「何でもいいから」
土方さんの指がするりと抜けたと思うと、かすかに衣擦れの音がする。着物の前をくつろげているんだろう。ややあって、尻の割れ目のあたりに熱く硬いものがぶつかったのを感じて、私はつま先を立てて腰を高く突き上げた。
「ちゃんと見えるぞ、お前のここ」
土方さんはそう言いながら、私の濡れた下着をするりと下ろす。それは膝の辺りで引っかかって私の自由を奪う縄のようになる。
「お前は肌が白いからな。まるで自分で光ってるみてぇだ」
「そんなわけないでしょ」
「本当だって。綺麗だ」
頭がかっと熱くなる。そんな風にうっとりとした声で言われると、冗談だと思って聞き流せない。酒の酔いもあって頭がくらくらする。照れ臭くて何も言えずにいると、土方さんのそれがぐいと腹の底を押し上げてきた。
着物の裾をぎゅっと抱きしめて快感に耐える。そうでもしないとあられもない声を上げてしまいそうで怖かった。背中を丸めて俯いた私の頭の上から、土方さんの声が降ってくる。
「そんなに締め付けるなって」
「だって、気持ちよくて」
「挿れただけだぞ」
「そんなこと言ったって」
「飲みすぎたせいじゃねぇのか?」
ゆっくりと土方さんの体が動く。後ろからのしかかってくるように突いてくるから、幹の間に挟まれて潰れそうだ。片腕では体を支えきれず、幹に額をぶつけそうになってしまう。
それを見かねたのか、(見えているわけがないのだけれど)土方さんは私の肩越しに幹に片手をついて私が押しつぶされたようにしてくれた。
「しっかり立てよ、酔っ払い」
土方さんが甘い声で挑発する。繋がった場所から甘い痺れが走って、気が触れたように身体中がびくびくする。しっかりどころかひとりで立つこともままならず、土方さんの腕にすがりつくように掴まってなんとかという有様だった。快感が声にならないように、できるだけ口を大きく開けて息を吐いたら、口の端から唾液がこぼれる。みっともない。けれど、取り繕う余裕もない。
「おい、もうちょっと体起こせよ」
「や、無理、です」
「いいから」
土方さんの手が私のあごを掴む。そのままぐいと引っ張られて、背中を弓なり反らせて無理矢理後ろを振り返るような格好になる。帯が邪魔でお腹が苦しい。
それをなんとか言葉にしようとした、その瞬間、ずっと闇の中に溶けていた土方さんの顔が見えた。
はっきりとではないし、顔の輪郭と髪の境目とか細かなところまでは分からなかったけれど、瞳孔が開いた瞳の横の白眼や、薄く開いた唇からのぞく白い歯が見えた。それが見えれば他のパーツのあたりもだいたいついて、暗闇に目が慣れればそこにはいつもと変わらない土方さんの綺麗な顔があった。
怒ったような苦しいような、ねだるような甘えるような、死に物狂いで獲物にしがみつく獣のような顔をして私を見ていた。欲情しきって理性を失いかけた、これ以上に魅惑的な土方さんはそうそう見れるものではない。
土方さんが私の名前を呼ぶ。それはもう、何度も何度も呼んだ。話をしてなどと頼んだから、それを律儀に守ろうとしてくれたのだろう。
私はその呼び声に応えるために、精一杯背中をのけぞらせて土方さんにキスをした。唇はもちろん、頬、耳、まぶた、前髪、眉毛、まつげ、唇の届くところ全て、ついばむようにキスをした。
土方さんは私の肩口に顔を埋めて射精し、私はお返しに土方さんの耳朶を噛んでやった。酒と煙草と汗の匂いがなんだかとても生々しくて、私は朦朧とする意識の中でその匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
腕の中に転がり込んできた
の体を木の幹に押し付けて、土方は遠慮なく
の体に自分の体を重ねた。
月のない夜だ。森の中に入ってしまえば星明りも街のネオンの光も届かない。
は暗闇の中で前後を見失いつつも、手探りで土方の着物の裾をつかむ。土方はその手を取って指を絡めると幹に縫い留めた。
手を握り体を重ねる土方の存在は感じるのに姿を見ることができず、不安そうな顔をしている
の表情が土方には見えている。子どもの頃、昼夜を問わず野山を駆け回る生活をしていたおかげで、土方は普通よりも夜目がきく。闇に潜む攘夷浪士を捕えるのに便利な目だが、それがこんなところで役立つとは思いがけない発見で、土方は口元に笑みがのぼるのをこらえ切れない。
盲目の人は、視覚に頼れない代わりに、触覚や聴覚が発達するのだという。闇夜に視界を奪われた
は、肌に触れる土方の指の熱さや乾いた肌の感触にいつもよりずっと敏感に反応した。いつ人目に付くともしれない場所で素肌を露にしてしまっている背徳感もあってか、普段とは違う緊張があるのかもしれない。
着物の裾を割って足を広げさせ、下着の上から
の性器を指でこする。それだけで
はこらえきれずに声を漏らすから、土方はその顎を掴んで無理やり唇をふさいだ。くぐもった
の声が土方の口の中でこだまして、まるで自分の体の中から
の声が聞こえてくるようだ。体の内側から鼓膜を震わせる
の甘い声に、脳がしびれる。
「土方さん、苦しい」
と、呼吸の合間に
が訴えてくるが、土方はそれをほとんど無視した。
小さな下着に手をかけて
の膝まで下ろしてしまうと、理性を直接殴りにくるような香りが鼻先を襲った。闇の中で姿形は分からない。けれどそこで静かに存在を主張している性器の気配に土方は興奮を覚える。
は首だけを巡らして土方を振り返っている。見えない土方を探して伸びてきた片腕を、土方は慎重に握り返し、濡れそぼったそこに自分のものあてがって腰を進めた。それはすんなりと土方を受け入れ、
は漏れる息に乗せて土方の名前を呼んだ。
土方は前のめりになってできるだけ
と体を密着させた。後ろから耳元に口を寄せて、すぐそばにいることを示すために腰を抱いてやる。
そして、強く腰を突き上げた。
の口から甲高い悲鳴が上がり、
は慌てて手で口をふさぐ。それにかまわず、土方は
がよく感じるところ狙った。土方の動きに合わせて
の体ががくがくと揺れる。ふたりが繋がったところから卑猥な水音が立ち、肌がぶつかるたびに乾いた音が立った。
だんだんと夜闇に目が慣れてくると、ゆるく波打つ
の黒髪が夜の川面のように光るのまでが見えるようになってきた。腰を突き上げるたびに揺れる髪は、夜の川の流れを見るように美しい。それに魅入られたようになって夢中で腰を使っていた土方に、
が音を上げるまでそう時間はかからなかった。
「ち、ちょっと、待って、待って、土方さん……!」
その時、
の膝からがくんっと力が抜けた。腰に回した土方の腕に引っかかってなんとか転倒はまぬがれたものの、膝が笑ってしまっている。
「もう、立っていられない」
泣きそうな顔をして、
がそう言ったのが土方にはしっかり見えていた。
態勢を変えて、土方は木の根元に座り、自分の体をまたぐように
を座らせた。着物の裾が汚れないようにたくし上げて腹のあたりに抱えさせる。腰から下が闇の中に露になって、肌がほの白く光った。足袋だけをつけた小さな足。せっかくきれいな肌が虫に刺されたりしないといいなと思いながら、土方は
の腿を両手でさすった。
「自分で挿れてみろよ」
土方が挑発するように言うと、
は困ったような顔をしながらも手探りで土方のものを探り当てた。腰を浮かせて入り口にあてがい、静かに息を吐きながらそっと土方のものを受け入れると、甘い息が土方の鼻先を楽しませてくれた。
「動けるか?」
「ちょっと待って」
「何だよ、焦らすなよ」
は強がってそう言ったが、土方の肩口に顔を伏せて喘ぎ声混じりのため息をつく。土方はその小さな背中に手を回して労わるように撫でてやった。
「大丈夫か?」
「もう、なんでこんなところでわざわざ……」
「たまには気分変わっていいだろ」
「別に変えなくていいんです」
「そうか」
「いつも通りでいいの」
「いつも通りってどんなだっけ? 忘れっちまったから教えてくれねぇ?」
は今度こそ本気で腹を立てたのか、土方の耳を掴むと力の限り引っ張った。
「痛ぇよ、何すんだよ」
「いじわるなこと言うからでしょ」
「悪かったって。やめろよ」
痛い、と笑いながら
の手から逃れた土方は、心からの謝罪を示して唇を触れ合わせるだけのキスをした。単純なことに、それだけで気をよくしたらしい
は、指で土方の前髪を払い、両手で土方の頬を挟む。
「やっぱり、よく見えない」
土方は
の背中をしつこく撫でてやりながら言った。
「ちゃんとここにいるって。分かるだろ」
は土方の顔の輪郭をなぞって形を確かめるように指を滑らせる。
「土方さん。キスして」
土方は言われた通りにした。唇を重ねて、その柔らかさと温度を感じる。吐息の香りを確かめて、胸いっぱいに吸い込む。舌で唇をなぞって形を写し取り、唾液の甘さに舌がしびれる感覚を思い出す。角度を変えて互いの舌を絡め合って、唾液が混ざって立つ水音に酔う。唇に吸い付き、互いの呼吸を奪い合う。まるで飢えた獣のようにむさぼり合う。
そうしているうちに、
の腰が静かに動き始めた。初めはゆっくりと上下していたかと思えば、前後に動いたり円を描くように回ったり、感じるがまま、踊るように自由に動き出す。土方は両手で
の尻の一番柔らかいところを掴むと、その動きに合わせて体を支えてやった。
キスは休まなかった。
土方は薄眼を開けて至近距離から
の顔を盗み見た。全てを隠すこの闇夜のせいか、
の表情はいつにも増して恥じらいがなく大胆だ。夜目がきく上に闇に目が慣れてきて、土方にはその表情が手に取るようによく見えた。
「あっ、中でおっきくしないで……!」
と、
が眉根を寄せて身をよじる。
土方も思わず熱い息が漏れそうになって、歯を食いしばってそれをこらえた。
「無茶言うなよ」
は土方の首に取りすがって体を震わせた。土方は深く
を抱きしめて、その足の裏に手を入れる。柔らかい
の体はすんなり土方にしなだれかかり、すっかり体重を預けてくる。自分で体を操れるように体制を整えて、土方は
の身も元に唇を寄せた。腰の奥から爆発しそうな熱が生まれ続けているのを感じる。この熱を
も求めていることが、繋がった場所を通して伝わってくる。
「俺の着物咥えてろよ。汚してかまわねぇから」
そう言うと、
は小さく頷いた。
その時、土方は目の端で光るものを捕らえた。眼球だけを動かしてその正体を見る。男がひとり、木陰に身を潜めてこちらを見ていた。この暗闇では、よほど慣れていない限り顔も見えないだろうが、土方は
の体を腕の中に閉じ込めた。
は土方の肩口に顔を埋める。
「どうしたの?」
「何でもねぇよ」
を不安にさせたくなかったので、土方は男の目があることは口にしなかった。
の口に袖の端を咥えさせ、決して顔が見えないように深く抱き込む。誰とも知れない男に見られていると分かっていながら
を抱くのは正直気が引けたけれど、腕の中で快感に震えている
を放り出して男を殴りに行く方がもっと気が引けた。土方自身も、腰の奥に爆弾を抱えたような熱に犯されていて、早くこれをどうにかしたかった。
「動くぞ」
「うん、来て」
の甘くねだる声に酔って、土方はぐっと強く
を抱いた。
20191111