* 自慰行為の描写があるので、苦手な人は気をつけてね!













 首筋を大粒の汗が伝い落ちたこそばゆさに、土方は手のひらで肌をこすった。

 じりじりと照りつける太陽が頭上で勢いよく燃える夏日だった。とても上着を着ていられず、ワイシャツの袖を捲り上げてどうにか涼をとろうとするものの、そんなささいな努力は焼け石に水だ。滝のように流れる汗が肌に張り付いて気持ちが悪い。土方は屯所に戻ると、今すぐにでも頭から冷水をかぶりたい一心で風呂場に直行した。

 勢いよく脱衣所の引き戸を開けた瞬間、聞こえたのは勢いのいい水音だった。誰かが水浴びでもしているんだろうか、それにしては脱ぎ散らかした着物もない。

 暑さにいらだって無造作にスカーフを解いた土方の目の前で、浴室の内側からガラス戸を開けたのはだった。

「あ、土方さん」
「なんだ、お前か」
「すいません、今掃除していたところで」
「シャワー使いてェんだけど」
「どうぞ。片付けますから少し待ってください」

 ガラス戸を開けたまま浴室に戻るは、土方に負けず劣らず汗だくだった。水に濡れないよう、裾を持ち上げて帯に挟み込んでいるせいで、襦袢と白いふくらはぎが見えている。たすき掛けにした袖から覗く腕も濡れていて、その手の甲で顎の下の汗を拭うとき傾げた首には、汗に濡れた後れ毛が張り付いていた。いつもより小さくまとめた髪は仕事の苦労を物語るように乱れてほどけかかっている。の額に光る汗の玉がこめかめを伝い落ちたのを見て、土方はとっさに目をそらした。これ以上見つめてはいけない気がした。

 ようやく浴室から出てきたは、頬を上気させながら笑った。

「お待たせしました」
「おう」

 土方は努めてを直視しないようにしながら答えた。

 土方の気も知らずに、は土方の目の前で濡れた足を拭い、着物の裾を直し、帯から下げていた手ぬぐいで首の汗を拭う。身なりを整えてからでないと隊士達の前に出られないのだろうが、土方はとことん目のやり場に困って無駄に丁寧に時間をかけてスカーフを折りたたんだ。

 土方はこっそり生唾を飲む。急にベルトがきつくなったような気がして、祈るような気持ちで落ち着けと自分に言い聞かせた。はただ風呂掃除をしていただけでそんなつもりはないのだし、この暑さで体を動かしていれば汗くらいかくのは当然だ。そんなことで欲情するのは迷惑極まりない。それに、お互いにまだ仕事があるのだ。

 こんなにもやもや悩んでいるくらいならが身支度を整えるまで外に出ていればいいのでは、という妥協案が浮かんだところでもう遅かった。

「シャツ、後で洗いますから、かごに入れておいてくださいね」
「あぁ、分かった」

 脱衣所を出て行くを上の空で見送って、土方は壁にもたれて長いため息をついた。思いがけず目に悪いものを見てしまって目の奥がちかちかした。ズボンの中が苦しくてようやくベルトを外せてほっとする。黒いボクサーパンツは体の線を際立たせて、ふくらみが大きくなっているのがすぐに分かった。中が蒸れているのはこの暑さだけのせいではない。

 土方は自分に呆れながら、冷たいシャワーを浴びて落ち着こうとワイシャツを脱いだ。汗に湿ったそれをかごの中に放り込もうとしたとき、そこに一枚の手拭いを見つけた。たった今、の汗を拭った手拭いだった。

 ワイシャツと引き換えに手拭いを手にとった土方は、操られたようにそれを鼻先にあてがった。ほんのりと湿ったそれは鼻の奥をツンとさせるような匂いの中にかすかに甘い香りをはらんでいて、土方は呼吸に合わせてその香りを吸い込んだ。気がつけば、無意識に自分で自分のものを握っていた。

 頭の片隅では、こんなことをしてまるで変態だと非難する自分もいた。それと同時に、の香りに酔ってすっかり没頭してしまっている自分もいて、そのふたりが頭上から自慰にふける自分を見下ろしているような不思議な感覚がした。どちらも、土方が驚くほど冷静だった。

 手拭いの向こうに、の肌を思う。の肌を濡らした汗を吸って湿ったところを唇で見つけて、思わず噛んで吸い上げてみるともう片方の手が擦り上げるそれがみるみる固くなった。の熱い肉体にそれを差し込むところを想像する。熱い体液に濡れたそれがうねうねと動いて締め上げてくるあの圧力を思い起こして手に力を込める。思わず息が漏れて、その吐息は手拭いの中に澱んだ。

 上下する手付きを早くする。快感に集中するために少し前かがみになっていることに気づく。赤黒くそそりたったそれが目の前に見えて、の匂いを嗅ぐだけでこんな風になってしまう自分の体が馬鹿馬鹿しい。自分で知っている一番感じるところを指で擦り上げるともうこらえきれそうになかった。

 目を閉じて、首を傾げながら手の甲で汗を拭うの首の玄妙なしなりを思い浮かべる。腰の奥から突き上げてくるものを感じて、土方は手拭いをぐっと口元に押し当て、殺しきれない喘ぎ声をなんとか押さえ込もうとしたが、それは突然のノック音に驚いて喉の奥へ引っ込んでしまった。

「失礼します。土方さん、タオル、ここ置いておきますね……」

 土方の返事を待たずに引き戸を開けたは、バスタオルを抱えたまま立ち尽くした。





 てっきり、土方はもう浴室に入っているものと思っていたは確認もせずに扉を開けてしまったことを後悔した。

 最初は、吐き気でももよおしたのかと思った。なにせこの暑さだ、あんなに暑苦しい隊服を着こんでいてはいつ倒れてもおかしくない。けれどそうでないことはすぐに分かった。丸裸の上半身、割れた腹筋が上下するほど息が上がっている。中途半端にずり落ちたズボンからは、黒い茂みが見えていた。

「あ、ごめんなさ……」

 と、言いかけたの腕を土方は驚くほどの速さで掴んで引き寄せた。の背中で、大きな音を立て扉が閉まるのと、バスタオルが床に散らばり落ちたのはほとんど同時だった。

「ちょ、土方さ……」
「何にも聞くな!」

 懇願するように怒鳴られて、は反射的に口をつぐんだ。水浴びをしたように汗で濡れた胸に顔を押し付けられて少し気持ちが悪かったけれど、土方の胸だと思えば我慢できた。首を巡らせて床に散らばったバスタオルを見ると、それといっしょにの手拭いがくしゃくしゃになって落ちていた。土方が使い終わったバスタオルと一緒に洗おうとここへ置いていったのが裏目に出たらしい。

 土方に恥をかかせてしまった罪悪感に、は言葉も出なかった。土方の手が肩をがっちり掴んで身動きが取れない。これ以上ないほど固くなった土方のそれが腹にあたって、どくどくと脈を打っているのが着物越しにも分かる。

 土方はきっと恥ずかしさのあまりに顔を見られたくなくてこうしているのだろう。は土方が落ち着くまで好きにさせてやることにした。

 脱衣所は湿気がこもってむしむしする。汗みずくの土方に抱きしめられていると、せっかく拭った汗がまたじわりと肌に滲んできた。

「……悪い」

 土方はの肩に顔をうずめたまま、消え入りそうな声で言った。

「私こそ、ごめんなさい」

 は土方の汗でしっとりと湿った腕を、なぐさめるように撫でてやりながら言った。

「幻滅しただろ」
「そんなこと」
「嘘吐け」

 土方の重いため息が肩にかかる。その吐息の熱さにぞくりとして、は土方の胸に頬を寄せた。土方の胸板を汗のしずくが伝ったのが見えた。

「嬉しいわ」
「なにが」
「私のこと、考えてたんでしょ」

 土方は答える代わりに、の首筋に唇を押し付けて音を立てた。

「別に、いつもそんなことばっかり考えてるわけじゃないからな」

 その言いわけをするような口調に、は思わず吹き出した。

「分かってる」
「本当かよ?」
「本当よ」

 ふと、土方の腕の力がゆるむ。体を離してそっと見上げると、土方が遠慮がちに目を覗き込んできた。距離のないところから見つめた土方の瞳は熱に潤んで、眉間に寄った皺が土方のやるせない苦しみを物語っていた。

 どちらからともなく引かれ合うように口づけをした。汗のせいでしょっぱい味がしたけれど、そんなことにはどちらも構わなかった。

 と、唇を触れ合わせたまま、土方はの手をむんずと掴む。そして、そのままふたりの体の間に差し込んで、自分のものを握らせた。土方はいつもから触ることを嫌がるから、は目を丸くしてしまった。

「なに?」
「手ェ貸してくれ」

 土方は切羽詰まった声で言う。

 その声色に鬼気迫るものを感じて、は言われるがままそっと握った手を動かしてみた。途端に土方の表情が甘くゆるんで、それを見ただけでは言いようのない満足感に包まれた。片手で全部を握り切れなくて両手を添える。擦り上げるのに合わせて息を漏らす土方は、時折味わうようにの唇を吸って、その子どものようなやり方がかわいくて愛おしかった。は手だけを動かしながら、ずっと顎を上げて土方の顔を見ていた。

 土方はあっという間に射精した。の肩に寄りかかりながらびくびくと腰を震わせて今にも崩れ落ちそうになったけれど、の手前、なんとか耐えているようだった。

 は指の間からぼたぼたと白い雫をたらしながら両手でなんとかそれを受け止めた。

「……悪い」

 土方は荒い吐息混じりに言った。は首を横に振って、肩にのしかかる土方に頬を寄せる。

「大丈夫」
「あー、みっともねぇ……」
「そんなことないってば」
「お前、笑ってんじゃねぇか」
「笑ってない」
「笑ってる」
「笑ってない」
「笑ってる」
「笑ってない」

 と、突然上体を起こした土方にぐいと肩を押されて、は後ろにつんのめった。両手がふさがっているせいでどこにも手を付けず、洗面台に強か腰を打ち付けてしまう。その痛みに気を取られている間に土方に体を持ち上げられて、あっさり足を開かされてしまった。

「俺ばっかりしてもらっちゃ悪いからな」

 の足の間に挟まりながら、土方が自分に言い訳をするように言った。

「私は別に」
「俺の気が済まねぇんだよ。ちょっと黙ってろ」
「えぇ?」

 はぎくりとした。さっきまでの甘くゆるんだ表情とは打って変わって、土方は腹の底から怒ったような顔をしてにせまってくる。奥の方からぎらつくように光る瞳。これは決して逆らってはいけない目だった。

 土方は片手を伸ばして蛇口をひねると、の手を引っ張って今自分が出したものを水で流してしまう。そして、床に落ちていたバスタオルを一枚拾ってに押し付けて、の着物の裾を太腿の付け根までたくし上げた。

 土方の愛撫はしつこかった。一度射精したせいで余裕ができたのだろう、肌の見えるところ全てに唇を這わせて、まるであとからあとから噴き出してくる汗を全て舐めとろうとでもしているようだった。それだけのことでの下着はあっという間に濡れた。

 初めは洗面台に腰を下ろしたまま突かれて、次に後ろから抱かれた。は鏡に映る自分の喘ぎ顔を見るのが嫌で少しばかり抵抗したけれど、土方の顔も鏡越しに見れることに気づいてそこからは気をよくした。真剣な顔をして一心不乱に腰を使っている土方はいかにも雄っぽくて、見ているだけでたまらなかった。

 にはまだ仕事が残っていたから、この蒸し暑い中着物を着たままでいたのに、それももう無意味になるほど着崩れるまで抱き合った。ついにはお互いに立っていられなくなって、床にバスタオルを敷いてその上で座ったまました。

 まるで水浴びをしたようにふたりとも汗だくだった。暑くて暑くてたまらないのに離れるのは嫌だった。お互いの汗をローションのように使って腰を滑らせたら驚くほどスムーズに体が動いて、それがおかしくてふたりで笑いながらした。





「洗濯物が増えたわ」

 終わった後、ふたり分の汗と体液で濡れたバスタオルをかき集めて、は冗談交じりにぼやいた。

 土方は冷水のシャワーを浴びてすっきりした体にタオルを一枚だけ巻き付けて答えた。

「この天気だ、すぐ乾くだろ」
「そういう問題じゃないのよ」
「どういう問題だよ?」
「いろいろ段取りがあるの」
「へぇ」

 全く分かっていない顔をして、土方は言った。

「お前もシャワー浴びたら?」
「ここじゃだめよ」

 この浴室は、真選組隊士の中でも隊長クラスが使う場所だった。他の隊士達のためには大浴場があり、は普段、自分の住まいにしている離れに備え付けの浴室を使っている。

「なんか問題あんのか?」
「必要なものがそろってないもの」
「そうか?」
「女性はいろいろあるのよ」
「へぇ」

 土方はやっぱり、何も分かっていない顔をして分かったような返事をした。その顔がおかしくて、はつい笑ってしまう。

「なんだよ?」
「別になんでも」
「はっきり言え」
「何でもないってば」

 ふと、土方の手がの顎を掴んで持ち上げる。そのまま触れるだけの口づけをした。

 こういうところは、土方は本当にロマンチストだなとは半ば呆れながら思い、それに付き合ってこんなところで逢引する自分もたいがいだと、いたずらが成功した子どものような気持ちでこっそり胸を張った。














20180726