通りがかった会議室で、土方さんと沖田くんと山崎くんが膝をつき合わせていた。
取り込んだ洗濯物のかごを抱えて歩いていた私を見つけて、山崎くんが笑って会釈をしてくれたので、笑みを返す。
「みなさん、お疲れさまです」
「
さんも」
「ちょうどよかった、茶淹れてくれねぇか?」
「はい」
会議室にはポットと急須と湯飲みがもう準備してあった。洗濯かごは部屋の隅に置いておいて、そこに膝をつくと、すっと山崎くんが膝を寄せてきた。
「すいません、俺の淹れた茶は不味くて飲めないって副長が言うもんで」
見ると、手を付けられなかった湯飲みでお茶が冷めたまま放置してあった。確かに、少し色が濃すぎるように見えなくもない。
土方さんは煙草を吹かしながら、机の上に広げた書類を見下ろして険しい顔をしていた。
「土方さんは気難しくていけねぇや。少し気分転換でもしてきたらどうです?」
「うるせぇ、大きなお世話だ」
「頭回んなくなってきてますし、ここらで一息入れましょうよ」
「お茶淹れますし、そうしたらいかがですか?」
三方向から言われて、土方さんは面白くない顔をして舌打ちをした。どうやら相当気が立っているらしい、荒々しく立ち上がると、「煙草切れた」と呟いて足音高く部屋を出て行った。
山崎くんがほっと息を吐いて肩を落とした。
「大変みたいね。難しい事件なの?」
「それが、麻薬の密売事件なんですよ。ちょっと込み入ってまして」
「そう、大変なのね」
「俺の担当なんですけどねぃ、土方さんはあんまり急かすもんだから嫌になっちまいますよ」
「そんな、宿題やれってお母さんに怒鳴られてやる気なくす子供みたいなこと言わないでくださいよ、沖田隊長」
「うるせぇ、ザキ。山崎のくせに、ザキ」
「いや何なんですか、山崎のくせにッて」
つまらなそうな顔をして書類で紙飛行機を折っている沖田くんは、山崎くんの言う通り本当に子どもっぽくて、つい笑ってしまう。
山崎くんが疲れたような、諦めにも似た笑い顔をしてため息を吐く。土方さんにも手ひどくあしらわれ、沖田くんもこの調子では心労も重なっているだろ。
私は冷めたお茶で冷やされた湯飲みを手にとって、山崎くんの目の前で飲んで見せた。山崎くんと沖田くんは、ぽかんと目を丸くした。
「うん、ちょっと濃いけど、美味しい」
「
さん、そんな、気を遣わなくてもいいですよ」
「ちょうど喉が渇いていたから」
と、その時だった。
突然、体の芯がくにゃりと折れ曲がるように、力が抜けた。上体が傾いて、手から湯呑が滑り落ち、お茶が畳の上にこぼれてしまう。いけない、シミになる前に拭かなくちゃ、けれど、腕に力が入らない。
「
さん? どうしたんですか?」
山崎くんの声がやけに耳障りだ。これは、なんだろう。あまりに突然のことに頭が追い付かなくて、返事もできない。
「
さん?」
山崎くんがそばに膝をついて、私の肩に手をかける。その瞬間、触れられたところから痺れるような感覚が襲ってきた。
「やっ!」
自分でも思いがけない強い声が出た。山崎くんが傷ついたような顔をして身を引く。罪悪感に襲われてなんとか顔を上げたけれど、頬が熱くて自分の顔が真っ赤になっているのが鏡を見なくても分かった。恥ずかしくて真っ直ぐに目を見られない。
「
さん、顔が真っ赤ですよ、熱でもあるんじゃないですか?」
ついさっきまで何ともなかったのに、私の体で一体何が起こっているんだろう。なんだか怖いような気持ちになって胸を押さえると、心臓が早鐘を打っているのが分かった。それに合わせて呼吸まで浅くなってくる。
背中を丸めてしゃがみこんで動けないでいる私を、山崎くんはあたふたしながらも気遣ってくれた。
「どうしましょう、立てますか? それとも医務室に行って誰か呼んできましょうか?」
「ザキ、ちょっと落ち着け」
と、言ったのは沖田くんだった。指を折り曲げて山崎くんを手招きすると、何やら小声で耳打ちする。山崎くんは「はぁ!?」と声を上げて顔を真っ赤にした。
「何てことしてくれてんですかあんた!?」
「仕方ねぇだろ、まさか
さんが飲むと思わなかったんだからよ」
「それにしたって身内に薬盛るとか正気か!?」
薬? 薬って、なんの?
尋ねようとしても、体に力が入らなくて声も出ない。肘をついてもいられなくて、私はついにばたりと床に倒れ込んだ。
体の芯が熱くて、力が入らない。奥の方で何かが溶けている気がする。下っ腹の、奥の方だ。どんどん熱くなってきて、切なさがこみ上げてくる。息を吐いたらどろどろに甘い匂いが漏れてしまいそうで必死に口を塞ぐ。
「おい、何の騒ぎだ?」
その声に、体中に鳥肌が立って震えた。極寒の地に裸で放り出されたような震え方だった。自分の体のことながらわけが分からなくて目を見開くと、土方さんが上から私の顔を覗き込んできた。
その、切れ長の瞳。
胸が張り裂けそうに傷んだ。
今、声を出したら本当にみっともない声が出てしまいそうで必死で口を塞ぐ。
そんな目で見ないで、と首を横に振ったのに、土方さんは腕を私の背中に回して体を起こそうとする。たったそれだけのことで、否応なく体が反応してしまうのが分かる。目の前には山崎くんも沖田くんもいるのに。顔を伏せようとしても、土方さんの胸板に額を押し付けるような格好になってしまって、耐えきれずに甘い息が漏れた。土方さんの体温が目の前にあるのに触れられなくてもどかしい。
「副長、聞いてください! 沖田隊長があの薬を
さんに……!」
「はぁ!? 総悟、お前一体何をしてんだよ!?」
「別に、土方さんの股間にテント張ってやろうとしただけですよ」
「何をわけのわからんこと言ってやがる!?」
土方さん達が話をしていたことは、何ひとつ耳に入ってこなかった。土方さんが大声を上げるたびに振動が体に響いてくる。がまんができなくなって、土方さんの隊服の裾を掴んで堪えた。
土方さんの腕が膝の裏に入って、体を持ち上げられる。体が不安定に揺れると、もう、言葉も出ない。両手で顔を覆って首を横に振ることしかできなくて、土方さんがぎゅうっと体を抱き寄せてくれるのが恥ずかしくてたまらなかった。
土方さんに運ばれて部屋にたどり着く。
部屋の真ん中に座り込んで小さくなっていると、まだ日が高いというのに土方さんは雨戸も障子も閉めてしまった。隙間から差し込んでくる細い光が、部屋を底からぼんやりと照らすばかりになる。
「大丈夫か?」
と、土方さんが気遣わしげに言う。
やっと人目から解放されてふたりきりになれた安心感で、私は土方さんの胸に深くもたれかかった。
「……大丈夫に見えますか?」
土方さんの腕が私の肩を抱く。着物越しに感じる土方さんの体温と、その声の熱さを感じるだけで気持ちが良くて息が上がる。土方さんもそれに気づいていないわけではないようで、私の目の前にある土方さんの喉が生唾を飲み込んでぐびりと動いた。
「薬ってなんのことです?」
土方さんは眉根を寄せて苦々しく答えた。
「あぁ、今捜査している麻薬密売組織が流してるらしいんだが、……媚薬の一種らしくてな」
「びやく?」
「沖田に任せてたんだが、まさか俺の茶に混ぜてたとは……」
土方さんが手を付けずに冷めていたあのお茶か。
私はほっと息を吐いて、ますます土方さんの体にしなだれかかった。良かった。このわけもわからず唐突に湧き上がってきた情欲は薬のせいなのだ、私の体がおかしくなってしまったわけではないらしい。
切なさにきゅんと縮こまる胸を手で押さえると、土方さんが優しく目を覗き込んでくる。
「体、辛いか?」
「熱くて力が入らなくて……」
見つめられるだけで体が反応してしまうのが怖かった。こんな風になるのは初めてだ。薬が原因とはいえ、自分の意思で自分の体を動かせないなんて、情けなくて涙が出てくる。みっともない姿を山崎くんや沖田くんに見られて、明日からどういう顔をして接すればいいんだろう。
体はちっとも思い通りにならなかったけれど、私はどうにか土方さんの隊服の裾を握りしめた。すがりつくように。
「土方さん、おねがい、怖いの、助けて……」
もう、かすれた声しか出なかった。
土方さんが私の後頭部を掴んで、唇を押し当ててくる。火が着いたように熱い舌が唇を割って入ってくる。ただそれだけで気が触れそうになるほど気持ち良くて、これ以上のことをしたら私はどうなってしまうんだろう。
静かに押し倒されて、畳の上に横になる。土方さんが体の上に覆いかぶさって、両腕で私の頭を抱え込んだ。隊服の裾を無意識のうちに引っ張ってしまう。体が言うことを聞いてくれなくて、隊服にを掴んだ指がしがみついて離れない。土方さんの肌に直接触れたいのにもどかしい。
私の舌を音を立てて吸い、下半身を私のお腹の下に方に押し付けながら、土方さんが囁いた。
「どうしてほしい?」
「え?」
「お前の気持ちいいところ全部よくしてやるよ」
土方さんの乾いた手が、ゆっくりと頬を撫でる。その感触だけで感じてしまって「ひんっ」とみっともない声が出た。恥ずかしくて顔から火が出そうだ、横を向いて目をそらすと、土方さんは私のこめかみに唇を押し当てた。
「息、かけないでっ」
「こんなんで感じんのかよ?」
「やだ、やめて……!」
土方さんの唇と舌が、こめかみから、頬、喉、そして胸へと下がって行く。体ががくがく震えた。感じているのか怯えているのか、どちらなのかはもはや分からない。土方さんが着物の襟を割り開いて、慎重に片方の乳房を露わにする。その緩やかな丘越しに、土方さんは私の目を見て笑った。その唇が、笑ったまま私の乳首を食む。
「……っ!」
雷に打たれたようだった。それくらい激しい快感が襲ってきて両手足がぴんと突っ張る。危うくとんでもない声が出てしまいそうになって必死で口をふさぐ。どうしよう。どうしようどうしよう。こんなのは知らない。薬のせいとはいえ、こんなことは。
「や、めてってば」
「なんで?」
「こわいの、おかしくなる」
「けどこのまんまじゃ辛いだろ」
土方さんが私の胸を掴んで優しく握る。指の間に乳首を挟んで器用にこね回す。赤く充血したそれは、土方さんの唾液で濡れて光っている。
土方さんは片手で私の胸を掴んだまま、つま先で私の足を割り開いて着物の裾をたくし上げた。抵抗する力も残っていなかった。足の間が、失禁したようにぐしょぐしょに濡れているのが感覚だけでも分かる。
「見ないで」
手をかざして隠そうとしたけれど無駄だった。土方さんにあっさり手を取られて振り払われてしまう。
濡れた下着を剥ぎ取られて、土方さんの熱い視線を濡れそぼったそこに感じるだけで下半身が震えてくる。切なくてぎゅっと目を閉じる。
「すげぇな」
土方さんは割れ目にそって指先を滑らせた。熱い密が溶け出すように奥から奥から溢れてくる。土方さんの骨ばって乾いた指が蜜をかき出すように動くたび、いやらしい水音が立ってそれに合わせて私の腰も揺れた。すがるような声が出るのを自分でも止められない。
「あっ、あっ、土方さん……っ」
「どこがいい?」
「ぜんぶ、気持ちいい……っ」
土方さんの指先が膣壁を優しく擦り上げるたびに、甘い息が漏れる。どこを触られてもそんな調子で逃げ場がない。体感したことのない快感の波にさらわれてどこまでも遠くまで流されてしまったら、私はどうなるんだろう。怖い、逃げ出したい。けれど土方さんの手つきは激しくも優しくて、私の顔を見下ろす眼差しだけで私に愛を伝えている。
いつの間にか指が二本に増えていた。一番敏感なところを激しく擦りあげられ、ひときわ大きく腰が跳ねた。
そうして、土方さんはやっと手を止めた。
声も出せないほど息を荒げていると、その間に土方さんは上着を脱いでスカーフを外し、もどかしそうにベルトのバックルを外す。
土方さんが体の上にのしかかってくる。頭を抱え込まれて唇が重なる。まだ息が整わなくて苦しかったけれど、力の入らない腕をどうにか持ち上げて土方さんの背中に手を回した。隊服の上から触れても土方さんの体が熱くて、鍛え上げられて引き締まった筋肉の感触がした。
土方さんの腰が動いて、硬く立ち上がったそれを押し付けられる。それをそのまま擦りあげながら、土方さんが至近距離で私を見つめている。熱くて力強い視線に背筋がぞくぞくした。
「待って、今いったばっかりだから」
「まだおさまってねぇだろ」
「でも」
「大丈夫だから」
蜜が溢れる入り口に、土方さんの先端があてがわれたのが分かる。首を横に振っても土方さんは聞き入れてくれず、有無を言わせず私の中に割り行ってきた。ぎゅっと目を閉じて耐える。土方さんが、膣壁全部を擦り上げながらゆっくりと私の中の奥まで届く。痺れるような快感が脳天まで響いて、背中が仰け反った。悲鳴のような声が出てしまうのを、土方さんが唇を押し付けて吸い取る。
そして、唇を重ねたまま下から何度も突き上げられた。そのたびに体全部が反応して、その刺激の強さに何度も意識が飛びそうになる。
土方さんが口づけをしながら私の目を覗き込んでくるから、なんとか意識を保っていられた。息も絶え絶えに、土方さんの首に腕を回してしがみつく。
「も、だめ、やぁ」
その声も、土方さんに口付けられてあっという間に飲み込まれた。快感の波に呼吸を奪われて、もう溺れそうだった。
「だめ、こわい、壊れちゃう」
土方さんが一段と深いところまで私の中をえぐって、足の指先が痙攣する。
土方さんが私の髪をかきあげてくれた。土方さんの顔が良く見えるようになる。どこからか雨粒が落ちてきたような気がして見上げたら、土方さんは汗だくだった。鼻の頭からひとしずくの汗が私の頬に落ちたらしい。
熱くて優しい眼差しに見つめられて、胸が詰まった。恥ずかしくて愛おしくて、体中を襲う熱い波にさらわれて、土方さんの体の中に溶けてしまいたかった。
「壊れちまえよ、このまま」
「やっ、あっ、こわいこわいこわいっ、やぁあ!」
「大丈夫だ、俺がいるだろ」
「あっ、いやあっ、あっ」
「見ててやるから、ほら」
土方さんの煽る声と下から激しく突き上げられる快感に、もう抗えなかった。
まっすぐ土方さんと見つめ合う。見つめ合ったまま、腰をぶつけ合って唇を重ねる。お互いの熱い息と生々しい声が混ざる。いやらしい水音と、肌を打ち付け合う音が徐々に速さを増す。
呼吸に紛れて、私は死にものぐるいで訴えた。
「土方さん」
「あぁ?」
「なまえ、呼んで」
土方さんは熱っぽく瞳を潤ませて、私を抱く腕に力を込めた。
「
」
「土方さん、あぁ、気持ちいい……っ」
「
、もう辛いか?」
「辛い、こわい、こわれちゃうこわれちゃう……っ!」
「壊れていい、全部見せろ、
」
「やぁ、あっ、あっ、あっ、土方さん土方さん土方さんあぁぁあ……っ!」
土方さんが私の名前を呼ぶ甘い声を聞きながら、限界に達した体が激しく痙攣する。
土方さんの腕に守られたまま、私は意識を失った。
目が覚めると、夜だった。
暗い部屋の底で、行燈の暖かな灯りが光っていた。頭を巡らすと、水差しとおむすびが置いてあるのが見えた。
頭ががんがんしたけれど、どうにか体を起こしてみる。着ているものは浴衣だけで、前のあわせ方が緩く帯も軽く結んだだけだった。この結び方は、たぶん土方さんの仕業だろう。
裾を直して、ふたたび布団に倒れた。薬の作用だろうか、体がだるくて仕方がなかった。
「お目覚めですか?」
どこからか声がして、目を上げる。
襖が開いたままになっていて、廊下に誰かが膝をついていた。暗くて姿かたちは分からない。
「誰?」
「沖田です。体は大丈夫ですかィ?」
まったくいつもの調子で、飄々と沖田は言う。部屋に入ってくる様子はなかったので、髪も襟も乱れたままにしておいた。身なりを整える気力も体力も残っていなかったから、ありがたかった。
「今日は、すいやせんでした。まさか
さんがあれを飲むとは思わなくて」
つい、笑ってしまった。言葉だけは殊勝だけれど、その声色はまったく悪びれていなくて、沖田くんらしいことこの上なかった。
「土方さんに怒られた?」
「はい、近藤さんにも」
なるほど、それで素直に謝罪しようという気になったのか。沖田くんを動かすには近藤さんの鶴の一声が一番効く。
「それじゃ、もう私が怒ることないわね」
「いいんですよ、むちゃくちゃに怒ってくれても。ちゃんと右から左に聞き流しますんで」
「それじゃ私の無駄骨よ。疲れちゃうからやめておくわ」
沖田くんがため息を吐く気配がした。たぶん、呆れているのだと思う。
人をだまして媚薬を盛るなんて、人前で醜態をさらして恥をかかせて、人の尊厳を著しく傷つけて貶める行為に違いない。こんな酷い目に合わされて腹を立てない方がおかしいかもしれない。
けれど、腹を立てる余力もないほど、私は疲れていた。頭が痛くて、体が重い。手や足の指先がしびれて感覚がない。沖田くんを責める言葉のひとつも思い浮かばなかった。
「今度、何かお詫びします。ゆっくり休んでください」
その言葉を最後に、沖田くんが音を立てずに立ち上がったのが分かった。襖が閉じる。畳を踏みしめる気配がして目を開けると、土方さんがいた。どこから聞いていたんだろう、表情を見るだけでは分からなかった。
「調子はどうだ?」
枕元に座り込みながら、土方さんが言う。手を伸ばしたら、自然と握り返してくれた。しびれた指先に、土方さんの体温が心地良かった。
「あんまり良くないです。頭が痛くて」
「悪いな、薬の作用で、痛み止めとか使えねぇらしい。医者の話じゃ休めば自然と治るらしいから、しばらくは養生しろよ」
「ごめんなさい、迷惑かけて」
「お前のせいじゃないだろ。俺も悪かったな、無茶させちまった」
そう言って、土方さんはほんの少し視線を泳がせて、頬を赤らめた。
夢の中の出来事のようにおぼろげにしか思い出せなかったけれど、記憶が飛んでしまうくらい激しいことをしたと思うと私まで恥ずかしい気持ちがして、照れ隠しに口元を手で隠す。
「でも、あぁしてくれなかったらもっと酷いことになってたかもしれませんよ」
「そう思うか?」
「はい」
「ならいい」
土方さんの手が、額に落ちた前髪を払ってくれる。見上げると、優しい口づけが降ってきた。額を触れ合わせて目を閉じる。
その慈愛に満ちた行為に、心も体もじんわりと癒されていくのを感じた。
土方さんがそばにいてくれるなら、今夜はゆっくり眠れそうだった。
20180212