土方さんは猫に似ている。

 気の向いたときにふらりと私の前に現れて、気が済んだら何事もなかったような顔をして去っていく。私が呼んでもこないくせに、まぁ、私から呼んだことなんて一度もないけど、忙しいときに限ってちょっかいをかけてくるのはやめてくれないかなと、思わないこともない。

「なんですか?」
「ちょっと息抜き」

 腰に腕を巻かれて抱き寄せられる。土方さんは背中からするのが好きみたいだけれど、私は正直に言って嫌だ。帯の結び目が邪魔でいっそ痛いくらいだし、顔が見えないから土方さんが何を考えてるのかさっぱり分からなくて不安になる。でも、土方さんにはその方が都合がいいんだろう。今何を考えているのかとか、たぶん私に知って欲しいと思っていない。自由勝手な土方さん。自分の都合のいいようにするのが好きな土方さん。首筋を甘く吸われて、私は思わず土方さんの手の甲を平手で叩いた。

「ちょっと、痕つけないでください!」
「別にいいだろ、これくらい」

 土方さんは私のうなじに唇を這わせたまま言う。吐息がくすぐったい。

「なにもそんな目立つところに……」
「どうせ誰も見ねぇよ」
「分からないでしょそんなこと」

 とても力では敵わなくて、私は土方さんの手の甲をぎゅっとつねってやった。土方さんは情けない悲鳴を上げてやっと唇を離してくれたけれど、腕はまだ私の胴に巻かれたままだ。脅すように力一杯抱きすくめられる。

「てめぇ、何しやがる」
「やめてくれないから」
「痕残っちまったじゃねぇか」
「それはお互いさまでしょ」

 土方さんは私の目の前に痕の残った手の甲をひらつかせた。私の爪の形に窪んだ肌、赤い痕。土方さんが私に残した痕とそっくりな痕。

「萎えた」

 土方さんはそう言って腕を解くと、機嫌を損ねた猫が尻尾を巻いて逃げていくようにどこかへ行ってしまった。ほっとしたような、ちょっと残念なような気持ちがして、まだくすぐったい感触が残っている首筋をそっと撫でる。まだここに土方さんの気配が残っている。私には見えない痕もきっと、しっかりと。



 土方さんは猫に似ている。

 勝手気儘に甘えてくるくせに、ちょっとしたことでヘソを曲げるところが少し面倒臭い。私の事情も気持ちもお構いないしだし、私ばっかり土方さんに合わせているみたいで癪だ。でも、猫みたいなら、猫じゃらしは好きかしら。今夜、私から誘ったらどんな顔をする?新しい遊び道具を見つけた猫みたいに、私にじゃれついてくれたら嬉しいんだけれど。






20170918