「はい。これ」

そういって手渡されたのは、薄い青色の小さな包み紙だった。紺色のリボンで包装されたそれは、 かさりと静かな音を立てて私の手の中にすっぽり収まる。私に似つかわしない得体の知れない物体だった。その時の私にとっては。

「……なんですか? これ」

「家庭科の時間に作ったクッキーだ」

「はぁ」

「作りすぎてしまったからお裾分けにと思ったんだが……、迷惑だったか?」

「いえ。そういう訳じゃないんですけれど……」

なぜ私に? と聞きたいのが本当のところだけれど、それはかえって野暮な気がして言わなかった。 どうせなら藤代とかにあげたほうが喜ぶと思うのじゃないかしら。

「あぁ、藤代には別に用意してあるから、気にしなくていいぞ」

読まれた。そんなに私はわかりやすい顔をしていたらしい。

「……ありがとうござます」

「あぁ。それじゃ、またな」

女子棟の廊下をさんざん注目集めながら渋沢は去っていって、その背中を見送って私はもう一度手元の袋の視線を落とした。 これを友人の前で食すのは不可能に近い。渋沢先輩手作りというだけで彼女たちにはごちそうだ。 教科書の重みで割ったりしないように慎重に持って帰ろう。



20050828