朝が好きになれるおまじない
いつもならばありえない時間にセットされた目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、のそりとベッドから起き上がる。夜明け前の部屋は薄暗いけれど目がきかないほどではなく、そっとカーテンを引くと空は驚くほど白く明るかった。時計の針は朝の三時を回ったところだ。日が昇る前から世界はこんなにも明るいだなんて、知らなかった。どこかから鳥の鳴く声がした。
リモコンのボタンを押してテレビをつける。昨日のうちにチャンネルは合わせておいた。小さなテレビの向こうには、部屋の窓から見える白い空とは段違いの抜けるような青空が広がっていた。早朝に似合わない、いっそ狂ったようにハイテンションな解説者の声が耳障りで音量を下げる。
画面に映し出されるスターティングメンバーの名前と顔写真。藤代くんはすっかり定位置になったワントップ、ゴールマウスを守るのは渋沢さん、水野くんはベンチスタート。須釜さんがボランチでゲームキャプテン、センターバックは椎名、サイドに高山くんが入っている。代表初先発だ、心の中でおめでとうを言う。郭くんと山口くん、それに藤村くん。
控え室を出て入場を待つ選手が映し出されて、ウォームアップをして少し汗をかいたメンバーが真剣な顔をして手のひらを打ち合わせている。
藤代と真田が、何か言葉を交わして笑い合っていた。椎名が対戦相手の選手と目を合わせてお互いの背中を叩いた。どうやら調子はとても良さそうだ。
ふと、ベッドの上で携帯電話が点滅しながら震えているのが見えた。友達が、駅前にあるスポーツカフェからメールを寄越したようだ。出勤前に朝食を取りながら観戦するとは言っていたが、その誘いを断った私を気遣ってくれたようだった。
――起きてる? 今からでも来ない?
にっこり笑った絵文字の付いたその文面を見ていたら、口元が緩んだ。
窓から空を見る。夜明けの近い空はますます明るく、薄くたなびく雲が淡い紫色にその端を染めている。やがてオレンジ色の光が差して、世界に朝を連れてくるだろう。
テレビからは小さな音量でナショナルアンセムが流れてくる。青いタオルをかざす観客、後手に手を組んでまっすぐ前を見つめている選手。
今まさに明けようとしている夜の向こう、確かに繋がっている空の下にみんなはいる。早朝の見たこともない美しい空は、そんなことを臆面もなく思わせてくれるほど美しかった。
それを心から応援する気持ちさえあればどこにいようが変わらないように思えた。
スタジアムに駆けつけるのも、ひとところに集まってみんなでわいわいと賑やかに応援するのも、こうやって一人静かにテレビの前に座っているのでも、この朝が特別なことに変わりない。
メールを返して携帯電話をベッドの上に放り投げると、ちょうどキックオフのホイッスルが鳴った。小さな音量で溢れるように聞こえてくる歓声。それに耳を傾けあくびを噛み殺しながら、眠気覚ましのコーヒーを淹れるためにキッチンに立った。
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20170205
title by OTOGIUNION